過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

朝――。

窓の外から差し込む光が、まぶしい。

目を開けた瞬間、
自分の体がぐっしょりと汗をかいていることに気づいた。

(……気持ち悪い。)

シーツが湿っている。
服も、肌に張り付くほど濡れていた。

腕を動かそうとすると、重い。
全身が鉛のようにだるい。

胸が、わずかに痛む。
呼吸はできる。けれど、浅い。

枕元のスマホを手に取り、時間を確認する。
画面がまぶしくて、目を細める。

(熱……ある。)

体温計を取り出し、脇に挟む。
待っている間、動く気力もない。

――ピピッ。

液晶に浮かんだ数字は、38.2℃。

(やっぱり……)

何が“やっぱり”なのか、自分でもよくわからない。
でも、予感はしていた。

雪乃は、ベッドの横にある小さな引き出しを開け、薬箱を探る。

奥の方から出てきた、使いかけの鎮痛解熱剤。
いつ買ったかも覚えていない。

でも、今はこれにすがるしかなかった。

立ち上がり、冷蔵庫から昨日のパンを引っ張り出す。
硬くなっていて、少しだけかじって飲み込む。

喉を通りづらかった。
でも、何か胃に入れないと薬が飲めない。

水を飲んで、薬を口に含む。
ごくん――と、喉を鳴らして飲み込んだ。

(……今日も、仕事。)

休めるわけがない。
誰も代わってはくれない。

夕方までには熱を下げて、
ちゃんと笑顔で、化粧をして、出勤しなきゃ。

理由なんて、もうどうでもいい。

なぜ熱が出たのかも、
どうしてこんなに体が痛いのかも――

考えたくない。

これは、きっとただの風邪。

風邪ってことにしておこう。

そうやって、
雪乃は今日もまた、自分を騙すことにした。