過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

病室のドアを開けた瞬間、空気が変わった。
モニターのアラームが断続的に鳴り、看護師たちが忙しなく動き回っている。

「到着しました!」

滝川がそう声を上げて中に入ると、ベッド上には顔面蒼白の雪乃が横たわっていた。

閉じたまぶたの下からは微かに眼球が動き、胸が小刻みに上下している。

「意識レベルは?」

「JCSで2桁。呼びかけには応じません。呼吸34回、脈拍128。SpO2は92で維持していますが、冷汗と顔面蒼白が顕著です」

遠藤が一歩前に出て報告すると、滝川は頷きながら手早くベッドサイドへ移動した。

「低酸素はないか……ショック兆候だな。胸部、腹部に外傷歴は?」

「今のところ自覚のある訴えなしです。ですが、背部と左脇腹に擦過傷が見られます」

滝川は即座に聴診器を取り出し、雪乃の胸部と背部へとあてた。

肺音はやや過呼吸に伴う乾いた呼気音、心音は速いながらもリズミカル。

ただし腹部には軽度の反跳痛と防御性がある。

「左下腹部と脇腹……打撲かもしれない。エコーと血液検査、至急で回して。腹部CTの準備も依頼。ルートは確保済み?」

「はい、右前腕に18G。点滴開始しています」

「よし。乳酸値も忘れずに。出血性ショックかもしれない、意識が回復してもすぐに楽観視はできない」

滝川の声は冷静だったが、言葉の端々に緊迫感が滲む。
看護師たちは滝川の指示に従い、次々と準備を整えていった。

遠藤がそっと雪乃の手を握りしめる。
「大丈夫、大丈夫だからね。先生がついてるよ」

その手は冷たく、微かに震えていた。

滝川はそれを横目に見ながら、もう一度雪乃の顔を見つめた。

(こんな状態になるまで、どうして誰にも……)

心の奥で言葉にならない思いが渦巻いた。

「神崎には俺からも連絡入れる。すぐに来るはずだ。遠藤さん、神崎が来たら案内して」

「はい」

滝川はひとつ息を吐き、次の段階へ向けて、再び動き出した。