過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

夕暮れの空気に包まれた病院のエントランスをくぐる。
いつも通りの淡い蛍光灯の明かり。
人々が行き交い、静かに日常が動いている。

雪乃はその中を歩いた。
脈が飛ぶ感覚に、知らないふりをしながら。
心の中で必死に言い訳を探す。

「どうやって説明すればいい?
転んで脇腹と背中を擦りむくなんて……どんだけ派手な転び方したんだって話よね」

聴診されれば、傷のことは即座にバレる。
そんなの、目に見えている。

意識が遠のきそうになるのを、必死にこらえた。

エレベーターを待つ間、壁に手をつく。
そのとき、後ろからじっとした視線を感じて振り返ると、溝口がいた。

「うわ……気まずい」

覚えていないふりをして、目をそらす。
そのままエレベーターに乗り込むと、溝口も一緒に乗ってきた。

階数ボタンを押して待つ。
溝口は他の階を押さず、同じ階だけ。

当然だ。
同じ科の病棟だ。

心の中で一人問答を繰り返す。
「どう説明する?どう誤魔化す?」

視界は徐々に霞み始め、かつて家へ帰る道をゲームに見立てていた記憶がよみがえった。

エレベーターは途中で止まり、数人が乗り降りし、時間がかかる。

脇腹の鋭い痛みに合わせて呼吸が乱れる。
手すりにしがみつき、口を固く結ぶが、小さな声が漏れそうになる。

溝口は一度もこちらを気にせず、端末の画面に集中している。

(本当にこの人が気づかなくてよかった。
気づいていたかもしれないけれど。)

やっと目的の階に到着し、二人は一緒に降りる。

ナースステーションが見えた瞬間、ほんの少しだけほっとした。

そこには遠藤がいたが、溝口に呼び止められ、遠藤は奥へと向かった。

カウンターに触れる指先に力が入る。
小さく唾を飲み込む。

心臓が暴れ出し、まるで自分を脅してくるようだった。

そして、溝口先生はすぐ隣にいる。