抗生剤の点滴が4週間を過ぎた頃。

朝の回診が終わり、看護師が血液培養のために採血しているのを神崎はそっと見守っていた。

手元の電子カルテに記録を続けていると、雪乃が静かに声をかける。

「先生、抗生剤の点滴の合間に、一度家に帰ることはできますか？2時間くらいでいいんですけど…」

神崎はベッドサイドの椅子に腰掛け、じっと彼女の目を見て尋ねた。

「どうして？何か足りないものがあるの？」

雪乃は少し考え、言葉を選ぶように答えた。

「ええと、…病院じゃ感じられない普通の空気とか、ほんの少しだけ自分の居場所を確かめたいっていうか…」

神崎はその言葉に耳を傾け、しばらく沈黙した後に穏やかに言った。

「わかった。検討してみるよ」