呼吸のリズムが落ち着いてくると、神崎はもう一度バイタルチェックの指示を出し、慎重に聴診を始めた。

「大丈夫だよ。心臓もよく動いてる。」

そう声をかけると、雪乃はさっきまで強張っていた自分の手のひらをじっと見つめながら、小さく呟いた。

「ごめんなさい……」

「なんで謝るの?」

「怖い夢を見て、気づいたら苦しくなってて……」

「怖い夢だったんだね。」

雪乃はゆっくり頷き、言葉を絞り出すように続けた。

「お父さんにされてた……」

神崎はこの状況で父親の話題を続けるべきか少し迷ったが、彼女が話したいのなら、きちんと聞こうと思った。

「お父さんに何かされたの?」

「暴力みたいな……叩かれたりしてたから……」

「辛かったね。今は大丈夫?」

「今はあまりされないけど、たまに来た時に突き飛ばされたりして、それで苦しくなったりするし……」

「それは怖いよね。ずっと言えなかった?」

そばで話を聞いていた遠藤が、静かにブランケットを掛け直した。
口元を引き締め、優しいまなざしで見守っている。

雪乃は小さく頷いた。

神崎は静かに言葉を続けた。

「父親のことは、これから一緒に考えていこう。君が一人で抱え込む必要はないよ。」

遠藤はそっと湯たんぽを準備し、過呼吸で口が渇いている雪乃に温かいお湯を差し出す。
無言のまま、二人の間に寄り添うような空気が流れた。

雪乃はお湯をゆっくり飲みながら、小さく息をついた。

神崎と遠藤は、彼女の痛みと不安に寄り添いながら、これからの支え方を考え始めていた。