夕方の回診が近づく頃。
雪乃は水で濡らしたタオルを、そっとまぶたに当てていた。

赤く腫れた目元を隠すように、何度も優しく、ゆっくりと冷やす。
鏡の前に立つと、目元の腫れや涙の痕を注意深く確かめる。

(大丈夫、大丈夫……)

自分にそう言い聞かせながら、口角をほんの少し上げて、笑顔を作った。
作り笑いでもいい。
心配させるわけにはいかない。

ぐっと頬を引き上げて、また鏡を見る。
どうにか、いつも通りの顔。

でも、それでもまだ心の奥はぐらぐらしていて、揺れていて。
そんな自分に気合いを入れるように、両頬をぺちんと軽く叩いた。

──ランドリールームで見た、あの女の子の姿が脳裏をよぎる。
小さな身体で、手足に包帯を巻かれながらも、明るく笑っていた。

(私だって、負けてられないよね)

心の中でそっと呟いて、もう一度、鏡に映る自分を見つめた。

ほんの少しだけ、強い顔になった気がした。

そのとき、廊下の方から、回診の足音が聞こえてきた──。