人が行き交う。
その一人ひとりが、病院という場所にそれぞれの事情を抱えて、何かを背負っていた。
杖をつきながら、そっと腕を支えられて歩くお年寄り。
隣を歩く家族がそっと手を添えて、言葉少なに付き添っている。
大きなお腹を抱えた妊婦さんが、旦那さんと手をつなぎながら歩いている。
時折立ち止まっては深呼吸して、不安そうな目をしているのを、彼が優しく覗き込んでいた。
エレベーターの前では、泣きじゃくる小さな子どもをあやすように、
母親がぎゅっと抱きしめて、背中を優しくとんとんと叩いている。
車椅子に乗った年配の女性が、看護師と笑いながら会話を交わしつつ廊下を進んでいく。
その笑顔の向こうには、どこかにいる誰かがいるという安心感が滲んでいた。
──みんなのそばには、誰かがいた。
(……私のそばには、ずっと誰もいなかった)
そう思った瞬間、胸の奥に小さく針が刺さったような痛みが走る。
神崎先生は、気にかけてくれる。
体調を見てくれて、検査の内容や次の治療方針についても、丁寧に説明してくれる。
夜には時間を作って話をしてくれるし、手を握ってくれたり、軽く抱きしめてくれたりもした。
だけど。
(もし、病気が治って、もう病院に来る必要がなくなったら──
きっと、会うことはなくなる)
それが当たり前だとわかっている。
医者と患者。
そういう関係なら、それで終わるのが普通だ。
「未来のことを想像して、自分を追い詰めないで」
神崎先生は、そう言ってくれた。
でも、やっぱり。
(自分の隣に、無条件にいてくれる人がいない)
その現実が、どうしようもなく寂しかった。
神崎先生がしてくれることは、きっと──多少なりとも特別に接してくれているのだと思う。
けれどそれは、最初に出会ったときのこと。
キャバクラで倒れた私を見つけて、医者として助けてくれたその“責任”と、
何かを抱えた人間として、放っておけないという“義務感”──
その延長線上にあるものなんじゃないかと、不安になる。
(……そうじゃないって、思いたいのに)
胸がじんわりと苦しくなる。
何かを期待してしまいそうな自分が、いちばん怖かった。
それでも、その人の声が、表情が、触れてくれた手のぬくもりが、どうしようもなく自分を安心させるのだ。
だから余計に、孤独が際立ってしまう。
その一人ひとりが、病院という場所にそれぞれの事情を抱えて、何かを背負っていた。
杖をつきながら、そっと腕を支えられて歩くお年寄り。
隣を歩く家族がそっと手を添えて、言葉少なに付き添っている。
大きなお腹を抱えた妊婦さんが、旦那さんと手をつなぎながら歩いている。
時折立ち止まっては深呼吸して、不安そうな目をしているのを、彼が優しく覗き込んでいた。
エレベーターの前では、泣きじゃくる小さな子どもをあやすように、
母親がぎゅっと抱きしめて、背中を優しくとんとんと叩いている。
車椅子に乗った年配の女性が、看護師と笑いながら会話を交わしつつ廊下を進んでいく。
その笑顔の向こうには、どこかにいる誰かがいるという安心感が滲んでいた。
──みんなのそばには、誰かがいた。
(……私のそばには、ずっと誰もいなかった)
そう思った瞬間、胸の奥に小さく針が刺さったような痛みが走る。
神崎先生は、気にかけてくれる。
体調を見てくれて、検査の内容や次の治療方針についても、丁寧に説明してくれる。
夜には時間を作って話をしてくれるし、手を握ってくれたり、軽く抱きしめてくれたりもした。
だけど。
(もし、病気が治って、もう病院に来る必要がなくなったら──
きっと、会うことはなくなる)
それが当たり前だとわかっている。
医者と患者。
そういう関係なら、それで終わるのが普通だ。
「未来のことを想像して、自分を追い詰めないで」
神崎先生は、そう言ってくれた。
でも、やっぱり。
(自分の隣に、無条件にいてくれる人がいない)
その現実が、どうしようもなく寂しかった。
神崎先生がしてくれることは、きっと──多少なりとも特別に接してくれているのだと思う。
けれどそれは、最初に出会ったときのこと。
キャバクラで倒れた私を見つけて、医者として助けてくれたその“責任”と、
何かを抱えた人間として、放っておけないという“義務感”──
その延長線上にあるものなんじゃないかと、不安になる。
(……そうじゃないって、思いたいのに)
胸がじんわりと苦しくなる。
何かを期待してしまいそうな自分が、いちばん怖かった。
それでも、その人の声が、表情が、触れてくれた手のぬくもりが、どうしようもなく自分を安心させるのだ。
だから余計に、孤独が際立ってしまう。



