ランドリールームの中では、静かに洗濯機が回っていた。
その一角で、小さな子どもが母親と一緒に洗濯物をたたんでいるのが目に入る。
まだ幼稚園にも上がっていないくらいの年齢だろうか。
小さな腕にはキャラクター柄の絆創膏と、細く巻かれた包帯が見えた。
きっと、この子も入院しているのだろう。
その姿を見て、雪乃の胸にふっとあたたかいものが灯った。
(こんなに小さい子も、頑張って治療してるんだ……)
それを思うと、自然と背筋が伸びた。
自分も、弱音ばかり吐いていられない。もう少し、頑張らなきゃ。
洗濯機の表示を見ると「残り35分」と数字が光っていた。
スマホを取り出して、アラームに終了時刻をメモし、そっとランドリールームを後にする。
廊下に出て辺りを見回すと、視界に入ったのは売店の看板だった。
(そういえば、ここに来てから一度も売店行ってなかったな)
何気なく足を向けると、その隣にはコンビニの案内板もあって、思わず小さく笑ってしまう。
(売店もコンビニもあるって、さすが大学病院……)
どちらに入ろうかと迷った末、静かで品揃えの良さそうな売店の方へ足を踏み入れた。
中には、お菓子や雑誌、文房具に雑貨……そして子ども向けのおもちゃまで所狭しと並んでいた。
コンビニとはまた違う、あたたかい雰囲気がある。
(あ、これ……)
棚の一角に目を留めると、自分が昔から好きだったクッキーが置かれていた。
(頑張ったご褒美に……一個くらい、いいよね)
そう思って手に取った瞬間、ふと顔を上げた。
──目の前に、見覚えのある姿があった。
(神崎先生……!?)
とっさに、クッキーの棚の陰に身を隠す。
なぜ隠れてしまったのか、自分でもよく分からなかったけれど、
病室の外で突然会うと、どういう顔をすればいいのか戸惑ってしまう。
そっと隙間から覗くと、神崎は隣にいた看護師風の男性と文房具のコーナーを見ていた。
「これ、すぐ壊れるんだよな……」
そんな会話が聞こえてきて、思わず笑いそうになる。
──と、その瞬間。
「大原ちゃん、何してんの?」
後ろから大きな声がして、思わず肩を飛び上がらせた。
振り向くと、白衣姿の滝川先生が立っていた。
「あっ……」
しまった、と思ったときにはもう遅く、神崎の視線がこちらに向いていた。
神崎は雪乃の手元と、持っていた空の洗濯袋に視線を落とすと、「……洗濯?」と尋ねた。
「はい、今は自分で行ってます」
そう答えると、横から滝川先生が「お、偉い偉い」と茶化すように言い、
神崎も「脱走かと思った」と微笑んだ。
「まじ? そういう感じ? ダメじゃんそれは〜」と滝川先生が続ける。
「脱走なんてしませんよ〜」と笑いながら返すと、
神崎はわざとらしく肩をすくめて「まあ、監視カメラそこら中にあるから、すぐ見つけ出すけどね」と冗談めかして言った。
(なんで脱走前提で話されてるんだろう……)
その場にいた男性看護師がくすくすと笑って、「仲良いですねー」と言いながら自分の買い物を済ませて店を出ていった。
雪乃が手にしたクッキーに視線を落とした神崎が、ぽつりと「一緒に、いいよ」と言った。
「え、ほんとに……?」
滝川先生が「おお〜優しい〜」とひときわ大きな声で冷やかす。
なんだか久しぶりにワクワクした気持ちになって、神崎からクッキーを受け取ると、
「ありがとうございます」と丁寧にお礼を言った。
「走ったりしたらだめだよ」
と、神崎がまるで子どもに言い聞かせるように言い残し、外来の方向へ歩いていった。
(なんか……注意される感じ、子どもみたいだったけど……クッキー買ってもらっちゃったし、ラッキー、かも)
そう思いながら、ランドリールーム近くの休憩スペースにあるテーブル席に座る。
他の患者や家族が行き交う中、人間観察をしていると、ほんの少しだけ“普通の日常”が戻ってきたような気がした。
その一角で、小さな子どもが母親と一緒に洗濯物をたたんでいるのが目に入る。
まだ幼稚園にも上がっていないくらいの年齢だろうか。
小さな腕にはキャラクター柄の絆創膏と、細く巻かれた包帯が見えた。
きっと、この子も入院しているのだろう。
その姿を見て、雪乃の胸にふっとあたたかいものが灯った。
(こんなに小さい子も、頑張って治療してるんだ……)
それを思うと、自然と背筋が伸びた。
自分も、弱音ばかり吐いていられない。もう少し、頑張らなきゃ。
洗濯機の表示を見ると「残り35分」と数字が光っていた。
スマホを取り出して、アラームに終了時刻をメモし、そっとランドリールームを後にする。
廊下に出て辺りを見回すと、視界に入ったのは売店の看板だった。
(そういえば、ここに来てから一度も売店行ってなかったな)
何気なく足を向けると、その隣にはコンビニの案内板もあって、思わず小さく笑ってしまう。
(売店もコンビニもあるって、さすが大学病院……)
どちらに入ろうかと迷った末、静かで品揃えの良さそうな売店の方へ足を踏み入れた。
中には、お菓子や雑誌、文房具に雑貨……そして子ども向けのおもちゃまで所狭しと並んでいた。
コンビニとはまた違う、あたたかい雰囲気がある。
(あ、これ……)
棚の一角に目を留めると、自分が昔から好きだったクッキーが置かれていた。
(頑張ったご褒美に……一個くらい、いいよね)
そう思って手に取った瞬間、ふと顔を上げた。
──目の前に、見覚えのある姿があった。
(神崎先生……!?)
とっさに、クッキーの棚の陰に身を隠す。
なぜ隠れてしまったのか、自分でもよく分からなかったけれど、
病室の外で突然会うと、どういう顔をすればいいのか戸惑ってしまう。
そっと隙間から覗くと、神崎は隣にいた看護師風の男性と文房具のコーナーを見ていた。
「これ、すぐ壊れるんだよな……」
そんな会話が聞こえてきて、思わず笑いそうになる。
──と、その瞬間。
「大原ちゃん、何してんの?」
後ろから大きな声がして、思わず肩を飛び上がらせた。
振り向くと、白衣姿の滝川先生が立っていた。
「あっ……」
しまった、と思ったときにはもう遅く、神崎の視線がこちらに向いていた。
神崎は雪乃の手元と、持っていた空の洗濯袋に視線を落とすと、「……洗濯?」と尋ねた。
「はい、今は自分で行ってます」
そう答えると、横から滝川先生が「お、偉い偉い」と茶化すように言い、
神崎も「脱走かと思った」と微笑んだ。
「まじ? そういう感じ? ダメじゃんそれは〜」と滝川先生が続ける。
「脱走なんてしませんよ〜」と笑いながら返すと、
神崎はわざとらしく肩をすくめて「まあ、監視カメラそこら中にあるから、すぐ見つけ出すけどね」と冗談めかして言った。
(なんで脱走前提で話されてるんだろう……)
その場にいた男性看護師がくすくすと笑って、「仲良いですねー」と言いながら自分の買い物を済ませて店を出ていった。
雪乃が手にしたクッキーに視線を落とした神崎が、ぽつりと「一緒に、いいよ」と言った。
「え、ほんとに……?」
滝川先生が「おお〜優しい〜」とひときわ大きな声で冷やかす。
なんだか久しぶりにワクワクした気持ちになって、神崎からクッキーを受け取ると、
「ありがとうございます」と丁寧にお礼を言った。
「走ったりしたらだめだよ」
と、神崎がまるで子どもに言い聞かせるように言い残し、外来の方向へ歩いていった。
(なんか……注意される感じ、子どもみたいだったけど……クッキー買ってもらっちゃったし、ラッキー、かも)
そう思いながら、ランドリールーム近くの休憩スペースにあるテーブル席に座る。
他の患者や家族が行き交う中、人間観察をしていると、ほんの少しだけ“普通の日常”が戻ってきたような気がした。



