入院生活が始まって、もうすぐ三週間が経とうとしていた。
抗生剤の点滴スケジュールにも慣れ、体も少しずつ回復してきた。
少し前まで、ベッドから起き上がるのも億劫だったのに、今ではこうして一人で洗濯物をまとめられるようになった。
ふと、ベッドサイドに置いたスマホに目をやる。
通知は何も来ていない。
画面をスワイプすると、SNSにもメッセージアプリにも音沙汰はなし。
一瞬、胸の奥に沈むような感覚がよぎった。
……そういえば、最近、父から連絡がない。
金の無心。
命令口調の着信。
あの声を聞くだけで、呼吸が浅くなっていた日々。
今思えば、それが“日常”だったことのほうが異常だったのかもしれない。
「……まあ、どうでもいいけど」
誰に言うでもなくつぶやくと、手元の洗濯袋をぎゅっと握り直した。
ぐしゃぐしゃになったタオルとパジャマを整えて入れ直し、ランドリールームへ向かう準備をする。
そこへ、タイミングよく遠藤さんが病室に顔を出した。
「調子はどう?……もう自分で洗濯も行けるようになってきたのね〜」
にこやかにそう言って、袋を持ち上げる手元を見ていた。
「はい。神崎先生に“そろそろ安定してきたから、少しずつ動いてね”って言われていて。ただ……“階段は絶対使うな”って、かなり厳しくも言われてますけど」
小さく笑って、頭をかく。
遠藤さんは、ふふっと笑いながら「そっか」と頷いた。
「小銭、大丈夫?ここの病院のATM、硬貨使えないからさ〜、地味に不便なのよね」
「大丈夫です、あと600円あるので……今回含めてあと二回分はいけるかなって」
そう言って見せた財布の中身に、遠藤さんは「えらいえらい」と軽く拍手。
「両替必要だったら、一階の売店でできるからね。無理はしないで〜」
そう言い残して、廊下の向こうへと去っていった。
雪乃は、ふぅと息をつき、洗濯袋を抱えてランドリールームへ向かう。
白い長い廊下の先、まだ少し歩くだけで息が上がるけれど、こうして自分で動けることが、少し誇らしくも感じられた。
抗生剤の点滴スケジュールにも慣れ、体も少しずつ回復してきた。
少し前まで、ベッドから起き上がるのも億劫だったのに、今ではこうして一人で洗濯物をまとめられるようになった。
ふと、ベッドサイドに置いたスマホに目をやる。
通知は何も来ていない。
画面をスワイプすると、SNSにもメッセージアプリにも音沙汰はなし。
一瞬、胸の奥に沈むような感覚がよぎった。
……そういえば、最近、父から連絡がない。
金の無心。
命令口調の着信。
あの声を聞くだけで、呼吸が浅くなっていた日々。
今思えば、それが“日常”だったことのほうが異常だったのかもしれない。
「……まあ、どうでもいいけど」
誰に言うでもなくつぶやくと、手元の洗濯袋をぎゅっと握り直した。
ぐしゃぐしゃになったタオルとパジャマを整えて入れ直し、ランドリールームへ向かう準備をする。
そこへ、タイミングよく遠藤さんが病室に顔を出した。
「調子はどう?……もう自分で洗濯も行けるようになってきたのね〜」
にこやかにそう言って、袋を持ち上げる手元を見ていた。
「はい。神崎先生に“そろそろ安定してきたから、少しずつ動いてね”って言われていて。ただ……“階段は絶対使うな”って、かなり厳しくも言われてますけど」
小さく笑って、頭をかく。
遠藤さんは、ふふっと笑いながら「そっか」と頷いた。
「小銭、大丈夫?ここの病院のATM、硬貨使えないからさ〜、地味に不便なのよね」
「大丈夫です、あと600円あるので……今回含めてあと二回分はいけるかなって」
そう言って見せた財布の中身に、遠藤さんは「えらいえらい」と軽く拍手。
「両替必要だったら、一階の売店でできるからね。無理はしないで〜」
そう言い残して、廊下の向こうへと去っていった。
雪乃は、ふぅと息をつき、洗濯袋を抱えてランドリールームへ向かう。
白い長い廊下の先、まだ少し歩くだけで息が上がるけれど、こうして自分で動けることが、少し誇らしくも感じられた。



