過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

神崎の手の温もりがじんわりと雪乃の手に残る。
でもその心地よさと裏腹に、胸の奥にちくりとした感情が湧いた。

「……私、何でもかんでも神崎先生に“おんぶに抱っこ”で……申し訳ないです」

そう呟くと、神崎は一瞬だけ眉をひそめ、それからふっと笑った。

神崎は雪乃の言葉にふっと笑った。

「おんぶでも抱っこでも、してあげるよ?」

茶化すような声。
雪乃は一気に顔を真っ赤にして、慌てて言い返す。

「なっ……! そういう意味じゃないです!」

「うん、わかってる。わかってるけど、つい言いたくなっちゃうんだよね。雪乃ちゃんが可愛いこと言うから」

そう言いながら、神崎は座っていた椅子からゆっくりと立ち上がる。

そして、そのまま自然な動作でベッドに歩み寄ると、雪乃の隣、ベッドの端に腰を下ろした。

ほんの少し距離が近づいたことで、手のぬくもりも、息遣いも、よりはっきり感じられる。

神崎は、繋いでいた雪乃の手をもう一度、優しく握り直した。

「人に甘えるの、下手でしょ? 雪乃」

「……うん」

「じゃあ今は、俺が甘やかしてあげる。
どこかで頑張ってきた分、ここでは全部、俺に預けていい」

優しい声が、深く染み込んでくる。
雪乃は目を伏せて、こくんと小さく頷いた。

神崎はそんな彼女の肩をそっと引き寄せると、座ったままの姿勢で軽く抱きしめた。

「……ちゃんと寝るんだよ」

耳元で囁かれた声は、あまりにも優しくて、あまりにも意地悪で。

顔を見上げた時には、神崎はもう、にやりとした笑みを浮かべていた。

「じゃ、おやすみ」

軽やかに立ち上がると、神崎は部屋のドアへと向かっていった。

ドアを閉めるその直前まで、雪乃はぽかんと見送っていた。
鼓動だけが、少しの間、止まらないままで。