過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

数日が過ぎ、雪乃は一日二回、十二時間おきの抗生剤投与のスケジュールをこなす日々を過ごしていた。

朝晩の点滴にも少しずつ慣れ、痛みも和らぎ、身体が少しずつ楽になってきているのを実感する。

この日も朝の回診を終え、看護師が最後の点滴を抜き、廃棄の準備をしていた頃。

タイミングを見計らったように、病室のドアがノックされ、静かに開いた。

「こんにちは、大原さん。お加減どうですか?」

声の主は、岸本だった。

手には数枚のクリアファイルと茶封筒を抱えている。

「岸本さん……こんにちは。今日は、もしかして……?」

雪乃が上体を起こしながら声をかけると、岸本は微笑んでベッドのそばの椅子に腰を下ろした。

「はい。いくつかの手続き、整いましたのでご報告に来ました」

そう言って、岸本はクリアファイルを開き、中から保険証の資格証明書と、高額療養費制度に関する申請書類の控えを取り出して見せた。

「まず、こちらが新しい健康保険の資格証明書です。正式な保険証が届くまでの間、これで保険診療の継続が可能です。病院にもすでに提出済みですから、これ以降の費用は自己負担3割で大丈夫です」

「……ありがとうございます……」

雪乃は胸をなでおろすように、小さく息をついた。これまで費用のことがどこか心に重くのしかかっていたのだと、今になって気づいた。

「それと、高額療養費制度の申請も受理されました。申請者はご本人名義ですが、支払いが発生する月については、一定額を超えた分は払い戻しがされるようになります。病院の会計とも連携していますので、直接請求額が抑えられる形になります」

岸本の声はいつも通り穏やかで、丁寧だったが、その中にどこか「もう大丈夫」というメッセージが込められている気がした。

「今後の長期入院を見越して、支払いや必要な届け出も今週中にはすべて整える予定です。手続きはこちらで責任持って進めますから、大原さんは治療に専念してくださいね」

「……本当に……ありがとうございます。すごく、助かります……」

声に滲んだ安堵を隠すことはできなかった。

心の中にずっとあった不安が、ふっと軽くなった気がした。

「遠慮せず、気になることがあったらいつでも言ってくださいね」

岸本はにこやかにそう言って、書類をファイルに戻すと、そっと席を立った。

「それじゃ、今日はこの辺で。次は週末にまた伺います」

一礼して退室していく岸本の背を見送りながら、雪乃はゆっくりと布団の中に体を戻した。

医療も、生活も、誰かの支えがあって自分が守られている——そのことが、ひどくありがたく感じられた。