過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

昼前、病室のドアがノックされ、看護師の遠藤が現れた。

「大原さん、こんにちは。抗生剤、準備できましたので、始めていきますね」

「……はい」

朝の回診で説明された通りとはいえ、点滴の針を見ると、どうしても胸がざわつく。

昨日のようなことが、また起きるんじゃないか。
そんな不安が、喉の奥で小さく泡立っている。

遠藤はベッドサイドに点滴スタンドを設置しながら、やわらかな声で続けた。

「今日から使うのはバンコマイシンというお薬です。昨日と違って、少し時間をかけて投与することで副作用を起こしにくくしていきます。点滴は1時間ちょっとかかりますが、ゆっくり入れていきますね」

「……また、気分悪くなったりしませんか?」

「今朝の血液検査でも、腎臓や肝臓の数値は大丈夫でした。副作用がまったくないとは言い切れないけど、慎重にモニターしながら進めるので、何かあったらすぐに対応できますから、安心してください」

遠藤の言葉は、現実的でありながらも温かくて、心のひだにじわっと染み込むようだった。

「……お願いします」

雪乃がそっと差し出した腕に、遠藤は手際よく針を刺し、固定する。

点滴ルートが接続されると、無色透明の薬液が、静かにチューブを流れ始めた。

「開始しました。最初の15分くらいは、私ここにいますね。熱が出たり、赤くなったり、かゆみが出ることもあるので、こまめに見せてくださいね」

「……わかりました」

雪乃はシーツの上で自分の手を握りしめ、薬が体に入ってくる感覚に、神経を研ぎ澄ませていた。

(大丈夫、大丈夫。ちゃんと調べてもらって決めた薬なんだから)

頭ではわかっていても、心は簡単に納得してくれない。
それでも——それでも今の彼女には、「怖い」と言葉にできる強さがあった。

少しして、ナースステーションに一報を入れに行っていた遠藤が戻る。

「問題なさそうですね。あと30分ほどで終わりますから、無理せずゆっくりしてくださいね」

「……ありがとうございます」

遠藤が微笑んで病室を後にすると、雪乃は窓の外に目を向けた。

いつのまにか、朝の曇り空は晴れ、やわらかな日差しが差し込んでいる。

痛みや不安、まだ先の見えない日々は続いているけれど。
それでも、一歩ずつ治療が進んでいる実感が、今日の陽射しのように、少しだけ心を温めた。