過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

遠くに、うっすらと自宅の輪郭が見えた。
あの角を曲がれば、あともう少し。
いつもの道、慣れた風景。
でも、今夜はなぜか果てしなく遠く感じた。

等間隔に並ぶ街灯が、暗い夜道に優しく灯りを落としている。
一本、また一本。
まるでゲームのクエストのように、目の前に次の“目標”を設定しては、そこまで辿り着くことだけを考える。

「一本……クリア。」

心の中で呟く。

次の光の下へ、歩を進める。

「……あと、三本。」

意識が、ふっと薄くなる。
足が勝手に止まりそうになるのを、必死に抑え込んだ。

ドクン、ドクン――ドク……ドッ。

心臓の鼓動が、飛ぶ。
呼吸が、それに引きずられるように乱れていく。

(やだ……今じゃない。まだ倒れたくない。)

身体が軽く浮くような感覚と、地面が遠ざかるような眩暈。
自分の呼吸が遠くなる。

それでも、足を前に出した。

あと3本。
ただの街灯3本。
それだけの距離が、今の雪乃には人生のすべてのように思えた。

「……お願い。」

喉の奥からこぼれた声は、かすれて誰にも届かない。
それでも、言わずにはいられなかった。

光がにじむ。
視界の端が暗くなる。
手足の感覚が鈍っていく。

(あと……少し。家まで、あと……)

心臓が、もう一度大きく跳ねた。

――その瞬間、足がもつれ、視界が斜めに傾いた。

倒れる。

誰もいない夜道に、雪乃の身体が静かに崩れ落ちようとしていた――。