ホリー・ゴライトリーのような女





鹿波は、コーヒーを一口飲んだ。その横顔は、僕が今まで見てきた鹿波の、どれとも違う表情をしていた。人の言葉は、聴覚と視覚。その両方があって気持ちと乖離があれば、たちまち、嘘になるし、それが相手にもどことなく伝わってしまう。しかし、今の鹿波の声と表情は、言葉となって、真っ直ぐ僕に届いた。届いた言葉は僕の心を満たし、ふわふわと、温かい気持ちにさせた。


「あの後、コンビニの喫煙所で、私はもう一度勇気を出した。部屋が上下だったからっていうのもあるけど、私はあなたとお友達になりたかったの。友達を一切作ってこなかったのに、急に変よね。でも、なりたいって思った。あなたと私は友達になれているのか、どうなのか、わからないけれど、少なくとも私は友達だって思ってる。清原さんとあなたの仲が噂になった時は、正直、ショックだった。また私は一人になるんじゃないかって不安で、不安で、不安で! たまらなかった! それでも、あなたとはそれっきりにならなかった。ゾンビの台本を持って読み合わせがしたいって言ってくれた時、私、とっても嬉しかったの。友情っていうのは、そう簡単に壊れないものなんだって初めて知ったの。だから、あなたが今、悩んでいるなら力になりたいって思うし、死にたいなんて言われると悲しいし、絶対に阻止したいって思ってるわ。だから、失望させないでちょうだい。私を一人にしないでちょうだい。あなたは、輝いている。将来きっと立派な映画スターになれるし、仮になれなくて、どこかの町で安月給で仕事をするようになっても、きっとあなたは輝いている。そんなあなたを近くから、時には遠くから、観ていたい。あなたがいるってだけで、私もここにいるんだって、存在意義のようなものを感じるのよ。死んじゃダメよ。死にたいって思ってもダメ。私にできることがあるなら、なんでもするから……」


「僕も」と声に出した言葉が、裏返って、空咳をいくつかした。


「……僕も、鹿波とは友達だって思ってる」


鹿波は泣いていた。僕も泣いていた。僕のことをこんなに想ってくれる人がいるなんて、思ってもみなかったし、鹿波がいることで、僕は僕でいられる。涙を静かに流す鹿波を、僕は熱く抱擁したかった。壊れそうな人と壊れそうな人を支え合う『人』という漢字の成り立ちそのままに、寄りかかりたい、寄りかかって欲しい、そう思った。でも、僕は手を伸ばすことができなかった。溢れ出る涙を拭うのに、両手が離せなかった。


「生きて」


「生きるよ」


ローストコーヒーはすっかり冷めてしまった。一口飲むと、やっぱり冷めていて、苦い口の中がバカな選択をしようとした自分を律しているみたいに思えた。