ホリー・ゴライトリーのような女





東京は怪物に見える。そういう感覚は、たしかにあった。


どこも人混みでごった返し、皆、無機質で冷たい動くマネキンのように見えた。電車は5分もあればやってくるし、ビルは当たり前のように見上げると首を痛めそうなほど高い。カフェはパソコンを開く自由なオフィスって感じがするし、夜道は演劇舞台ほどの明るさがある。


そのどれもが地元にはないものばかりで、最先端? 中心? いや、常識とさえも思えてくる。


「怪物かあ……たしかに」


「うーん、ちょっと違うと思うわ。あなたの思う東京が怪物って感覚」


「そうか?」


「さては、見たことないでしょう? 怪物」


「東京のいろんな要素を怪物って表現してるんじゃないのか」


鹿波がタバコの火を消した。


「見に行く? 怪物」


「今からか?」


「そうよ。どうせあなたもう、あの場所には戻れないでしょう?」


「見てたのか」


「そりゃあれだけの騒ぎになればね。実のところ私も退屈してたのよ。あなたって『アベンジャーズ』好き?」


「いや。どっちかというと嫌いだな」


「じゃあ、決まり」