「『あお』はさ、私の中ではもっとこう、『THE あお』って感じなの。えっと……」と鹿波は、スマホを取り出し、頭上斜め上くらいに向けてシャッターを切った。
「ほら、これ。私の中の『あお』ってこんな感じよ」
「空の『あお』ってこと?」
「うーん、空の『あお』でも、いろんな『あお』があると思うのよね。長野県の空の『あお』もあれば、群馬県の空の『あお』もあるでしょう? でも、私の中ではこの『あお』なの」
「なるほど、東京の空の『あお』ってことか」
「そうね。東京はとても面白い街だと思うわ。と言っても、私も上京してきたクチなんだけどね。あなたもそうでしょう?」
「どうしてわかるんだ?」
「服装で。いかにも東京に染まろうと必死ですって感じの服装だもの」
僕は自分の身に着けてきた服装を、見返してみた。シャークソールのスニーカー、カーキー色のボトムス。水色の襟付きシャツに紺色のテーラードジャケット。渋谷のマルイでクレジットカードを作ってまで買った一式だ。
「変かな?」
「変とは言ってないわよ。ただ、東京はあなたを受け入れてないように思うの」
「そういうキミはどうなんだよ?」
鹿波は、赤いピンヒールに、黒のハイウェストのスカート、白のフリルブラウスという服装だった。
「ま、あなたと私は同じ生き物って感じね」
「自覚してるんだ?」
「してるわよ。それともあなたはまだ、そういう感覚になったことがないのかしら?」
「そういう感覚って?」
「東京という『怪物』に飲み込まれそうな感覚よ」



