朝7時過ぎ。バイトが終わり、王さんが朝ラーメンを食べに行こうと誘ってくれた。王さんは自転車で来ていて、僕は王さんの漕ぐ自転車の後ろにまたがって乗った。
「辛いの平気?」
と王さんは自転車を漕ぎながら聞いてきた。
「平気です」
と僕は王さんの後ろで答えた。
高校の時、最寄り駅の近くにつけ麺屋があった。同級生の親戚だか、なんだかがやっている店で、制服のまま食べに行くと、よくトッピングのゆで卵をサービスしてくれた。その店のつけダレは赤辛く、しかし酸味もあるのが特徴だ。辛さも選べるのだが、僕はいつも20倍の辛さで食べていた。
辛いものは大好きだった。周りが辛い辛いとヒーヒー言っているものでも、涼しい顔して食べられる自信があった。うどんを食べるときも、一味唐辛子を、親の仇打ちでもするかのように振りかけ、豪快に啜った。周りからは身体を心配された。辛い物が苦手な人は、舌の使い方が下手な人か、打たれ弱い人だと思っていた。女の子が可愛い子ぶって「あー、からーい!」なんて言うのを、腹立たしく思った。「可愛くねえんだよ」と言ってしまいたいくらいに。
「なら、スタミナラーメン、おすすめ」
と王さんに連れて行ってもらったラーメン屋は、早朝から営業していて、今で言う「朝ラー」をする客で賑わっていた。と言っても、店内はそれほど広くなく、こじんまりとしていて、ラーメンを出しているというよりは、町中華を出しているというような店だった。床は油で少しギトギトしていて、カウンターの脇にある醬油差しはいつ拭いたのかわからないくらい、薄く埃を乗せていた。
こういう店は、極端にどちらかに分かれるんじゃないだろうかと思う。とても美味しいか、声が出なくなるほど不味いか。王さんにおすすめされたスタミナラーメンを一口啜った瞬間、不思議と____これは本当に今でも不思議なのだが____声が漏れていた。
「美味っ!」
なぜだかわからない。本当に、心の底から美味かったのだ。スープは麻婆豆腐の素をベースに作ったんじゃないかというほど、麻婆味で、しかしちゃんとさらりとしたスープに仕上がっている。具材は、ニラやちくわ、コーンなんかも入っていたと思う。特にちくわなんて、とてもラーメンをウリにしているような店では使わない、どちらかというと邪道のような具材だったから特に印象に残っている。麺は中太ストレート。それも、普通にスーパーでも買えそうなくらいの代物で、しかし。なかなか、どうして。これらが互いに寄り添い、引き立て合いながら、美味を作り出す。なんて、ラーメンなんだ。すごいぞ、スタミナラーメン、といった感じで、気が付くと無我夢中、一心不乱に啜っていて、スープまで飲み干して完まくり。



