ホリー・ゴライトリーのような女





一部始終を幹事の上級生に見られていた。それがまずかった。


「じゃあ、キミはなんでこの学校に来たの?」


「決まってるでしょ。俳優になるためですよ」


「でもそれって、この学校じゃなきゃダメなの? というか専門じゃなきゃダメなの? 高卒だったり、大学だったり、渋谷や原宿でスカウトからなんて道もあるわけじゃない? 他の道はどれもダメだったってことなの?」


「別にどれを選んでいてもなってますよ、俳優に。どの道も選んでもなれる自信が僕にはあります。少なくともあなたよりはいい演技ができると思います」


「へえー、そう。じゃあ、今ここでやってもらおうよ、エチュード」


エチュードとは、ある設定を与えられ、それにアドリブで対応する即興の演技のことだ。


「ねえ、みんな?」


周りから拍手が起こった。このアウェイな雰囲気。どんな演技をしたって、きっとダメだろう。そういう嫌な雰囲気が全体を漂い、僕の呼吸を浅くする。苦しくする。胃がキリキリと痛み、胃液が逆流してくる感覚が襲った。


慌てて立ち上がって、口元を両手で押さえた。誰の目から見ても、吐く寸前の酔っ払いで、下品なカエルのような嗚咽が出た。周りからはどっと笑いが起きて、それらが僕の背中を押すように、トイレに押し出した。