ホリー・ゴライトリーのような女





夏休みの初日に、ゾンビの撮影がクランクインした。


最初の撮影は、多摩川の方の河川敷で行われることになり、その日は雨が降っていた。ロケの撮影は大抵雨だと中止にするものだけど、河川敷での雨というロケーションを見て、監督は「逆にいい味になりそうだ」と言って、続行することになった。僕はなるべく衣装部の人が作ってくれた、所々引き裂かれた血のりがべったりついた衣装を濡らさないように、高架下で出番まで待機していた。撮影機材を管理する製作部の女の子とメイク部の女の子と3人でいることが多かった。「寒くないですか? 何か飲み物を買ってきましょうか?」と製作部の女の子が言った。僕は「いや、大丈夫ですよ」と言って微笑みかけ、その何倍もの微笑みで「もし必要だったら言ってくださいね」と言ってくれた。


雨は弱くなることもなく、かと言って強くなることもなく、降り続けた。


途中、休憩時間になって、監督を含め全員が高架下に集まり、製作部の女の子が買ってきてくれたほっかほかの鶏めし弁当を食べた。実家に帰省中の清原が僕の隣に座って、「ちゃんとセリフを入れてきたんですね」と言った。


「まあね。さすがに撮影ともなれば、入れて来るよ」


「でも、こう言っちゃなんですけど……」と清原は声を潜めた。


「相手役の女の人、全然セリフ頭に入ってませんよね。さっきなんて、何度もセリフ間違えて、私、その度に台本を持って行って、確認させてたんですよ?」


「大女優気取りなんだろ」と僕は鶏めし弁当の付け合わせのきゅうりの漬物をかじりながら言った。


「俳優科ってそういう奴が多いんだよ。だから嫌なんだ」


「そういえば、あんまりお友達いないですもんね」


「そうでもないよ。こないだだって、俳優科の友達と飲んできたし」