ホリー・ゴライトリーのような女





「レモン、かけないの?」


「はい。レモン好きではないので……」


「レモンが嫌いな人間を僕は初めて見たよ」


「いえ、レモンが嫌いというより、唐揚げにレモンをかけるのが好きではないだけで……」


「好きではない?」


「好きじゃないんです」


「ねえねえ、僕、今のやりとりで2つほど、キミに聞きたいことがあるんだけど」


と言って、僕も唐揚げを1個、取り皿に取った。


「まず1つ目に、キミは『レモン好きではない』って言ったでしょ? でも実際は唐揚げにレモンがかかった唐揚げが好きじゃないということになる。それなのになんでキミは、『レモン好きではない』と言ったんだ?」


「あ、えっと……」


「2つ目に、『好きじゃない』ってさ、つまり『嫌い』ってことでしょ? でもキミは『好きじゃない』って言葉を使った。僕がわざわざ『嫌い』って言葉に変換してあげたのにだよ? 極端すぎるかもしれないけど、極端に言えば好きか、嫌い。それでいいと思うんだけど、キミはそうは思わないってことでいいの?」


「ちょっと好きとか、嫌いとまではいかないけど、苦手とか、そういうニュアンスもあると思うんですけど……」


「いや、1つ目の答えがまだだから。レモンは好きなの?」


「えっと、いや、好きというわけでもなくて……」


「じゃあ、嫌いなの? それとも苦手? ちょっと好きだったりもするの?」


「そこまでレモンについて考えたこと、なかったので……」


「そういうところなんだろうね。キミがこの学校に来たのって。ただなんとなくで専門を選んで、なんとなく勉強して、なんとなく卒業して、なんとなく就職。それも専門的な分野以外の業種にね」


「そうかもしれません……」