自分の部屋に戻り、僕はシャワーを浴びて、ベッドに横になった。少しでも寝ておくために。
「約束はたしか、12時半だっけ」
さっきまで人と一緒にいたからだろうか、それともこれが一人暮らしの癖の始まりだろうか。話した言葉は、すべてこの家賃45000円のアパートの一室に吸収される。そして、吸着して、やがて風呂場の黒いカビのようにこびりついて、なかなか取れない。頑固な独り言だ。でもそれを覚悟で僕は上京した。初めて生で見た東京の街。2年前の修学旅行の時。その頃はまだスカイツリーが建設中だった。浅草のホテルから見えた花やしきとクレーンが2台てっぺんにあったスカイツリー。ちょうど今くらいの時間に見えた景色。僕はあの景色に憧れて、ここで一人で生きていくと決めた。でもやっぱり一人は怖い。不安にだってなる。
それが鹿波の出現によって、浄化された。鹿波だってきっとそうに違いない。人は誰だって僕みたいに一人が怖くて、不安で。だからこそ、人は繋がる。きっかけはなんだったか。もうそんなことはどうだっていい。そんなことも忘れさせてくれる出会いに感謝する。ありがとう神様、ありがとう仏様。僕は今、幸せなのです。
思考がまるまるおかしな方向へと進んでいったところで、僕は眠りについた。実のところ、新宿の街を歩いていて、東京の怪物は鹿波の言うあれだけじゃないと気づいたところだった。有事の際はロボットに変形すると噂の都庁の建物が、完成する前、あの日浅草のホテルで見たスカイツリーに似ていると思った。鹿波のルーツはあの夜に見たスカイツリーなら、僕のルーツはあのスカイツリーだ。あれを目の当たりにした日から、実は怪物に飲み込まれていたのかもしれない。
でも、はっきりと言える。僕は怪物に飲み込まれなんかしなかったし、これからも飲み込まれる心配はない。一人じゃないから。上には、今頃夢を見ている鹿波がいる。どんな夢を見ているのだろうか。その夢に僕は出てくるのだろうか。そもそも夢なんかみていないかもしれないし、眠れないで、タバコを吸っているかもしれない。そのどれもが安易に想像できるところ、僕は鹿波のことを少しは知れているのだろうと自負する。
今思うと、笑えてきさえする。何も知らなかったということを何も知らなかった。僕は愚かで、阿呆だった。



