ホリー・ゴライトリーのような女





あの酷い夜から数日後。また夜のことだった。


僕の部屋は1階の中部屋になるのだが、ちょうど真上から、どしん、どしんとゴジラがタップダンスでもしているのかと思うほど、うるさい日があった。


この日、僕は新宿にある、カット代3500円の美容院に電車で行き、その帰りに秋葉原、神保町、御茶ノ水と寄って、帰ってきたこともあって、かなり疲れていた。


一刻も早く眠りにつきたかったのだが、どうも上の階のタップダンスがうるさく、一時はその感情に身を任せ、買ったけれど結局使わなかった突っ張り棒で天井を小突いてやろうかとも思った。しかし、ここは東京。治安のレベルも最低に近いほど悪い。これが原因でトラブルに発展するのもめんどくさいし、何より怖い。しかし、眠れない。


タップダンスが反復横跳びくらい激しくなった頃、僕は意を決して、スウェット上下のまま、上の階へ行き、インターホンを鳴らした。


そして出てきたのが、鹿波だったのだ。


「やっと気づいたのね」


「こんな時間に何してるんだ?」


「あなたを起こしていたの」


「言ってる意味が分からない」


「それは、私の言っている言葉の意味をわかろうとしていないだけじゃないかしら?」


僕は切ったばかりの自分の髪を乱暴に掻いた。


「なんで上に住んでるんだよ」


「家賃が安かったの」


「僕が下に住んでるのは、いつ気付いたの」


「あなたが引っ越してきた日、かしら。下でやけに物音がするものだから、コンビニに行きがてら、下に降りてみたの。そしたらちょうど、業者が冷蔵庫を運び入れるのを外でタバコを吸いながら眺めてるあなたがいたの。私、挨拶したのよ? 『こんにちは』って。あなたは軽く頭を下げただけだったけれど」