江戸川区にアパートを借りた。家賃45000円の1K。風呂とトイレは一緒になっているユニットバスで、僕はどうもこのユニットバスが嫌でたまらなかった。
便器の前に、マットを敷くと、湯船を張れなくなる。でも、風呂は暑い湯船に浸かってこそ、風呂なのであって、シャワーはただの気休めにしかならない。疲れもとれないような気がするし、何より惨めに感じる。だから風呂に入る時は、必ず浴槽に湯を張った。その時、トイレのマットをいちいち片付けなければならないのがめんどくさく、また、風呂が終わった後に、便器の前まで流れてきたお湯で濡れた床を掃除するのも億劫だった。
そうそう、洗面台がユニットバスについているというのも嫌だった。洗面台がちょうどトイレと浴槽の真ん中にあって、水道の蛇口は、風呂と兼用で使う仕組みになっていた。トイレと浴槽の間に、簀の子を置いて、その上に立って洗顔や歯磨きをするのだが、裸足で踏む簀の子の感触が気持ち悪く、またすぐ横の浴槽がふくらはぎが当たるのも邪魔くさい。かといって、キッチンのシンクで洗顔や歯磨きはしたくない。それこそ夢破れる者の条件に一致するような気がして、それだけはどんなことがあっても絶対にやらなかった。
夢破れる者の条件にもう一つ当てはまるとすれば、部屋中にハンガーを吊るして、服をかけているところもそうだと思う。大体、売れないお笑い芸人の部屋は、服が部屋中に吊るされているものだ。幸い、うちには小さなクローゼットのようなものはあったが、それだけでは到底、服を収納できないので、その下に四段のカラーボックスを置いて、下着やボトムスはそこに畳んで仕舞った。部屋の中で見える部分には絶対にコート一枚、吊るさなかった。
キッチンはなかなか及第点だったと思う。シンクは広かったし、調理スペースもちゃんとあった。火も、IHではなく、ガスコンロが置けたし、収納も十分すぎるくらいあった。2ドアの冷蔵庫くらいなら、キッチンの横に置けたし、電子レンジは冷蔵庫の上に置いた。2つあるとするなら、コンロの前が段差のある玄関で、少し身体を傾けて料理しなければいけないことと、炊飯器をキッチンではなく、部屋に置かなければいけなかったことくらいだ。
そんな部屋に、まさか鹿波も住んでいるなんて、僕は最初知らなかったのだ。



