江戸川区は、下町という雰囲気よりも、どちらかというと郊外の住宅地という雰囲気があるように思う。
比較的、土地が安い方なのだろう。都心で働く並のサラリーマンが結婚して、家庭を持って、縦長で屋根の形がいびつな家を建てる場所。いわば、都心で働く者たちのゴール地点のような街で、しかし、家が建った後も、より一層働かなければならない。当然のように共働きで、ローンに追われながら、満員電車に揺られ、休みの日も仕事のことばかり考えて、気がつけば家でパソコンを開いている。週末は、自転車二台が置けるほどのスペースでバーベキュー。可愛いはずの子どもたちもどこか達観していて、制服に身を包み、茶色いランドセルのようなバッグを背負って、地下鉄で学校へ通う。家では、タブレット端末で動画を観たり、ソシャゲをして過ごし、そのまま成長していく。そして、高校生にもなれば、竹下通りで放課後を過ごすようになる。子どもたちが自立すると、小綺麗な格好でとげぬき地蔵でも拝みに行く。大学病院に通い、待合室でちょっとしたコミュニティを気づき、柔らかいうどんを食べて帰ってくる。
つまらない人生だと思った。こういう人生はごめんだ。
夢を持っていると人間は、どこかキラキラと輝いているもので、叶う確率が低ければ低いほど、より輝きを増す。しかしそれも、20代までの話で、30歳を迎えると、たちまち黒ずんでしまう。バンドで売れるんだ、小説家になるんだ、俳優になるんだ。そういういろんな夢をもつ若者がひしめく街、東京。売れた人の密着番組なんかを見ると、少しやる気が出てくるものだが、成功者から成功の要因を探るより、夢破れた人から失敗の要因を探る方がずっと有意義に思えた。タイムリミットは30歳まで。無理ならもうきっぱり諦める。僕は上京する前からそう決めていた。



