鹿波が連れてきた場所は、河原だった。僕のアパートのすぐ近くの河原で、でもここにはまだ来たことがなかった。
「ほら、あれ」
と鹿波が指を差した方向には、スカイツリーがあって、京葉道路がまるで上と下を線引きするように横切っていた。
「あれが東京の怪物?」
「うん。そう。あれをじーっと見てるとね、なんだかとんでもなく自分が小さく思えて、不安で身体が震えてくるの」
そう、だろうか。僕にはあまりその感覚がよくわからなかった。でも、
「なんか、わかるような気がする」
そう思ったのは事実だ。いや、実際にはわかりたかっただけなのかもしれない。京葉道路がなければ、スカイツリーは綺麗に見えて、それを見させられる方がまだわかりそうな気がしそうなものの、京葉道路。どうも邪魔だ。それは事実。しかし、だからこそ、より自分が小さく見えるし、不安にもなるということを鹿波は言いたかったのだろう。その気持ちは理解したかった。
「二人だと怖くない。そうだろ?」
「どうかしら」
僕は無性に、鹿波にキスがしたくなった。でもそれは自分の中に微かに残っていた理性で必死に抑えた。
「怪物に飲まれた時、僕たちはどうなるんだろうね」
「決まってるじゃない」と鹿波は、また僕の胸ポケットからタバコを勝手に取り出し、火をつけた。
「おしまいよ。何もかも」



