「さあ、今日はお祭りよ!」と言って、鹿波はカバンから節分豆を取り出し、部屋中に撒き始めた。
「鬼は、外! 福は内!」
バラバラと音を立てて豆が散らばる部屋。僕は鹿波の愚行を止めようと、羽交い絞めにした。鹿波は、地団駄を踏みながら必死に振りほどこうとした。
「何やってるんだよ」
「離しなさい! こら、離しなさい!」
「意味がわからない。何なんだ、これは」
「節分に決まってるじゃない! ほら、豆まきしないと!」
「バカ野郎!」
と僕はベッドめがけて、鹿波を突き放した。鹿波は、顔からベッドの上に落ちて、それと同時に、持っていた豆が勢いよく部屋中に散らばった。
「痛っ! 何するのよ!」
と鹿波はベッドの上で足をバタつかせながら言った。
「それはこっちのセリフだ! 僕は今日、物凄く体調が悪いんだよ。インフルだったんだよ。ほら、早く帰れ!」
「だったら尚更、邪気を払わないといけないじゃない!」
「邪気? 何のことを言ってるんだ?」
「あなたに取り憑いた邪気よ!」
「そんなものはいない! ほら、帰れってば!」
僕は、半分キレていた。しかしもう半分は、鹿波の身に何が起きたのか、心配していた。これまで見てきたどの鹿波とも違う今の鹿波は、節分のせいか、何かに取り憑かれているような、そういう狂気じみた雰囲気があった。鹿波が酔っているところも僕は今まで一度も見たことがなかったし、声の調子も、怖いくらいに高かった。夢でも見ているのだろうか。いや、これは間違いなく現実だ。僕の鼓動がだんだん早くなっていく。鹿波が靴を脱ぎ、スカートのベルトに手をかけたのだ。慌てて僕は鹿波の腕を掴んで、阻止しようとした。鹿波は黙ったまま、身体をバタバタと揺すって抵抗する。
こんな鹿波は、これ以上見ていたくなかった。



