〇自宅・朝
葵父「いってらっしゃい」
緩い天パで葵ソックリのほわほわした笑顔のお父さんにキッチンから見送られる葵。
葵「いってきます、お父さん」
下駄箱の上に飾られたお母さんの写真に向かって。
葵「いってきます、お母さん」
葵モノ『検察官をしていたカッコいいお母さんは、ずっとわたしの憧れだった』
『だけどわたしが中3のときに、交通事故で亡くなってしまったの』
『お母さん。今日からわたし、彼氏のいる生活がはじまります……!(フリだけど)』
〇大学の大講義室(法学部三年生向け講義)・二限
駿「おはよー」
先に来ていた葵の隣に迷うことなく座る駿。
葵「お、おはよ」
(ドキドキドキドキ……)
(付き合ってるって設定なんだもんね)
(しょうがない、しょうがない)
自分に言い聞かせる葵。
「え、どうしたの、あの二人」「なんで駿くんがあの子の隣に座ってんの?」とザワつく講義室。
駿にじっと見つめられていることに気づく葵。
葵「や、やっぱり似合わないかなあ」
週末のデートで駿にホメられたのが内心とてもうれしくて、いつもよりちょっとだけフェミニンな格好で登校した葵。(伊達メガネは着用)
駿「ううん。今日もカワイイ」
「でも、やっぱり俺と二人きりのときだけにしてほしいかも」
男子の熱い視線が葵に注がれていて、周囲を牽制する駿。
女子生徒「ねえ、駿くん。こっちに来て一緒に座ろうよお」
駿の腕を引く女子。そして彼女の方を見上げる駿。
駿「ごめんね。俺ら付き合うことになったから」
ニッコリ微笑みながら女子生徒の手を引き剥がす駿。
そして女子生徒の刺すような視線が葵へと向けられ、ごくりとつばを飲む葵。
葵(もうちょっと事を荒立てないような言い方、できないかなあ⁉)
女子生徒「そうなんだあ。じゃあさ、今度みんなでカラオケ行くって話だけど——」
駿「うん、その話だけどさ。彼女ができたから、もう遊べなくなっちゃった。ごめんね」
女子生徒「えーっ、みんなでカラオケ行くくらいよくない? 香月さんもそう思うでしょ?」
女子生徒からは(いいよね?)という圧。そして駿からは(わかってるよね?)という圧。
葵「わ、わたしは……」
悪魔な葵「自分がしてきたことのツケくらい自分で払ってよね!」
天使な葵「でも、勉強したいって気持ちもわかるし」
葵「行ってほしくない……かな」
きゅっと駿の袖を小さく引っ張ってみせる葵。
駿「ごめんね。葵もこう言ってるし」
「付き合いたての彼女を不安にさせたくないんだよね」
女子生徒「……なにそれ。わたしが付き合ってって言ったときは、遊びたいから彼女は作らないって言ってたのに!」
駿「前はそうだったんだけどさ、遊ぶより優先したい子に出会っちゃったんだよね」
そう言うと、おもむろに葵に顔を近づけていく駿。
葵(えぇっ⁉)
顔面蒼白の女子生徒。二人がキスしたと勘違いする。実際は寸止め。
駿「だから、ごめんね」
もう一度女子生徒の方を見てニッコリ笑う駿。
女子生徒「そん……だっ……」
あまりのことに言葉にならない女子生徒。
女子生徒友人「ほら、もう諦めなよ」
「もっといい男なんて、他にいくらでもいるって」
呆然と突っ立っている女子生徒を友だちが慰めながら引っ張っていく。
葵(し、心臓止まるかと思ったーっ!!!!)
駿「本当にされるかと思った?」
「大丈夫。俺、違法なことはしない主義だから。安心して」
葵にだけ聞こえる声で言って、ニコッと笑う駿。
葵モノ『刑法176条 不同意わいせつ罪』←相手の同意なくキスしたら6ヶ月以上10年以下の拘禁刑
葵(たしかにされてはいないけど)
(十分ダメージ大きいからぁ~!!)
講義終了後。
駿「それじゃ、行こっか」
葵「えっと、どこに?」
駿「葵のお披露目に♡」
葵「え、ちょ、駿くん⁉」
駿に手を引かれ、講義室をあとにする葵。
みんなから注がれる視線が痛い。
〇校舎の外・12:10
駿「とりあえず腹減ったし、学食行く?」
葵「グゥ~(お腹の音)」
駿「斬新な返事の仕方だね」
ククッと駿に笑われ、かぁっと顔を赤くする葵。
学食に向かって歩いている途中。
葵&健吾「「あ」」
二人の友人とともに前から歩いてくる健吾に遭遇。
駿とつないだ手に視線を向け、顔が険しくなる健吾。
葵「えっと、健吾ね、ここの工学部の一年なの」
駿「ふうん。健気だねえ」
健吾「は? なにが言いたいんだよ」
駿「いや、別に?」
笑みを浮かべどこまでも余裕な感じの駿。
健吾の友人は興味津々で二人のやり取りを見つめている。
駿「特に用事がないならそろそろいいかな」
健吾「どこでも好きなとこ行けばいいだろ」
駿「じゃあ、そうするよ」
健吾「は⁉ おま……」
駿「うん? なにか言いたいことでも?」
健吾「いや、別に」※悔しそうな顔
健吾と別れてしばらく歩いてから。
葵「ねえ、健吾にはフリのこと、言ってもいいんじゃない?」
駿「なんで?」
葵「え、だって、ウソをつく理由がないし」
駿「ダメに決まってるでしょ。言いふらされたらどうすんの」
葵「じゃあ、口止めすれば……」
駿「人の口に戸は立てられないって言うでしょ」
葵「うん……」※浮かない顔
駿「ねえ、そんなにアイツにウソつくのイヤ?」
葵「イヤっていうか」
(健吾がイヤそうだったから)
(なんて言えないし)
駿「俺としては、アイツには信じたままでいてほしいんだけどな」
葵「へ⁉」
(それって、どういう意味?)
(ウソの関係が、本当になってくれたらいい……なんて思ってるわけないよね)
(ビックリしたなあ、もう)
「べ、別に、駿くんがその方がいいっていうならいいけど」
(でも、二人にはもうちょっと仲よくなってほしいんだけどな)
(だって、会うたびにいっつも険悪な雰囲気になっちゃうんだもん)
チラッと駿を見上げると、つないだままの葵の手の甲を自分の口に近づけていく駿。
葵「⁉」
駿「だから、本当にはしないってば」
葵にだけ聞こえるように言いながら、視線を反対側の歩道へと向ける駿。
駿の視線の先を見ると、「きゃあ」と小さく悲鳴を上げる女子三人組の姿。
葵(ほんと、抜かりないなあ)
〇法学部棟一階一番奥の部屋・15:00
扉には【N大法学サークル『LAW』】の札。
駿「へえ、こんなとこでやってんだ」
興味津々で部屋を見回す駿。
葵モノ『今日は、わたしが所属している法学サークルの活動日』
『事前に予約してくれた人の法律相談に無料で乗ったり、相談者がいないときはみんなで判例の検討なんかをしている』
駿「法学サークル、前から興味あったんだよね」
葵モノ『っていう駿くんを連れてやって来たんだけど』
葵(誰もいない)
しんと静まり返った室内。なんだか気まずい。
葵「も、もうちょっとしたらみんなも来ると思うんだけど」
と言いながら駿と距離を取り、壁際の長机の上に荷物を置く葵。
駿「じゃあさ、みんなが来るまで俺の相談に乗ってくれない?」
葵「へ⁉ わ、わたしに答えられるくらいのことなら、相談する必要なくない?」
駿「ただのヒマつぶし。練習だよ、練習」
葵「あー、そういうことね」
(問題を出してくれるってこと……だよね?)
二人で向かいあって机の前に座る。
葵「では、ご相談内容をお聞かせいだけますか?」※わざと改まった感じで
駿「実は、友人が先日事故を起こしまして。相手が急に飛び出してきたらしいんですよね。この場合、友人は罪に問われますか?」
ドクンドクンと早鐘のように心臓が打ちはじめる葵。顔色も悪くなる。
駿「葵、どうした?」
心配そうに葵の顔を覗き込む駿。
葵「あ、ご、ごめんなさい。交通事故を起こしたご友人が、罪に問われる——つまり起訴されるかっていうことですよね?」
「その事故に遭われた方は……お亡くなりになられたのですか?」
駿「そうみたいです」
葵「そうですか。実際の事故の状況がわからないのでなんとも言えませんが、飛び出しが原因で、運転者に重大な過失がない場合……不起訴となる可能性が高いかと思われます」
ギリっと奥歯を噛みしめる葵。
葵「ごめん。ちょっと気分が……」
ガタッとイスの音を立てて立ち上がると、トイレに駆け込む葵。
葵(なにやってるんだろ)
(お母さんの事故とは関係ないのに)
駿「葵、大丈夫?」
トイレの外から駿の心配そうな声が聞こえる。
葵「うん、大丈夫」
いつまでも閉じこもってるわけにはいかないと個室を出る葵。
葵「ごめんね、心配かけて」
駿「それはいいけど」
「体調よくないなら、今日はもう帰った方がいいんじゃない?」
葵「ううん。本当に、もう大丈夫だから」
駿「そんな無理しなくても、一日くらい——」
まだ心配そうな駿にカミングアウト。
葵「実はね、六年前に、お母さんが事故で亡くなったんだよね」
駿「え……」
葵「わかってるの。本当は、運転してた人は悪くないって。けど……」
(回想シーン)
母親が同僚と歩いているときに、ボールを追いかけて駐車中の車の陰から道路に飛び出そうとする子どもに遭遇。それに気付かず迫る車。慌てて止めに走った母親が子どもをかばって事故に遭う。
葵「お母さんの事故のことを言われてるのかと思って、ちょっとビックリしちゃっただけ。だから、本当にもう大丈夫。ごめんね」
ぎこちなく笑ってみせる葵。
駿「……」
動揺したような様子を見せる駿。
葵「駿くん?」
駿「ああ、ごめん。ちょっと用事あったの思い出したわ」
葵「そっか。じゃあ、またね」
駿「おお。悪いな」
葵(わたしがお母さんの話をしたから、気にしちゃったのかな)
部長「お疲れー」
葵「お疲れさまです」
廊下を歩いてきたサークルの部長(4年)に声を掛けられあいさつする。
部長「今日は、前回の相談内容の検討会だから。はじめる前にちゃんと復習しといてね」
葵「わかりました」
パンパン! と軽く頬を叩き、気合いを入れる。
葵「よしっ。集中、集中」
葵父「いってらっしゃい」
緩い天パで葵ソックリのほわほわした笑顔のお父さんにキッチンから見送られる葵。
葵「いってきます、お父さん」
下駄箱の上に飾られたお母さんの写真に向かって。
葵「いってきます、お母さん」
葵モノ『検察官をしていたカッコいいお母さんは、ずっとわたしの憧れだった』
『だけどわたしが中3のときに、交通事故で亡くなってしまったの』
『お母さん。今日からわたし、彼氏のいる生活がはじまります……!(フリだけど)』
〇大学の大講義室(法学部三年生向け講義)・二限
駿「おはよー」
先に来ていた葵の隣に迷うことなく座る駿。
葵「お、おはよ」
(ドキドキドキドキ……)
(付き合ってるって設定なんだもんね)
(しょうがない、しょうがない)
自分に言い聞かせる葵。
「え、どうしたの、あの二人」「なんで駿くんがあの子の隣に座ってんの?」とザワつく講義室。
駿にじっと見つめられていることに気づく葵。
葵「や、やっぱり似合わないかなあ」
週末のデートで駿にホメられたのが内心とてもうれしくて、いつもよりちょっとだけフェミニンな格好で登校した葵。(伊達メガネは着用)
駿「ううん。今日もカワイイ」
「でも、やっぱり俺と二人きりのときだけにしてほしいかも」
男子の熱い視線が葵に注がれていて、周囲を牽制する駿。
女子生徒「ねえ、駿くん。こっちに来て一緒に座ろうよお」
駿の腕を引く女子。そして彼女の方を見上げる駿。
駿「ごめんね。俺ら付き合うことになったから」
ニッコリ微笑みながら女子生徒の手を引き剥がす駿。
そして女子生徒の刺すような視線が葵へと向けられ、ごくりとつばを飲む葵。
葵(もうちょっと事を荒立てないような言い方、できないかなあ⁉)
女子生徒「そうなんだあ。じゃあさ、今度みんなでカラオケ行くって話だけど——」
駿「うん、その話だけどさ。彼女ができたから、もう遊べなくなっちゃった。ごめんね」
女子生徒「えーっ、みんなでカラオケ行くくらいよくない? 香月さんもそう思うでしょ?」
女子生徒からは(いいよね?)という圧。そして駿からは(わかってるよね?)という圧。
葵「わ、わたしは……」
悪魔な葵「自分がしてきたことのツケくらい自分で払ってよね!」
天使な葵「でも、勉強したいって気持ちもわかるし」
葵「行ってほしくない……かな」
きゅっと駿の袖を小さく引っ張ってみせる葵。
駿「ごめんね。葵もこう言ってるし」
「付き合いたての彼女を不安にさせたくないんだよね」
女子生徒「……なにそれ。わたしが付き合ってって言ったときは、遊びたいから彼女は作らないって言ってたのに!」
駿「前はそうだったんだけどさ、遊ぶより優先したい子に出会っちゃったんだよね」
そう言うと、おもむろに葵に顔を近づけていく駿。
葵(えぇっ⁉)
顔面蒼白の女子生徒。二人がキスしたと勘違いする。実際は寸止め。
駿「だから、ごめんね」
もう一度女子生徒の方を見てニッコリ笑う駿。
女子生徒「そん……だっ……」
あまりのことに言葉にならない女子生徒。
女子生徒友人「ほら、もう諦めなよ」
「もっといい男なんて、他にいくらでもいるって」
呆然と突っ立っている女子生徒を友だちが慰めながら引っ張っていく。
葵(し、心臓止まるかと思ったーっ!!!!)
駿「本当にされるかと思った?」
「大丈夫。俺、違法なことはしない主義だから。安心して」
葵にだけ聞こえる声で言って、ニコッと笑う駿。
葵モノ『刑法176条 不同意わいせつ罪』←相手の同意なくキスしたら6ヶ月以上10年以下の拘禁刑
葵(たしかにされてはいないけど)
(十分ダメージ大きいからぁ~!!)
講義終了後。
駿「それじゃ、行こっか」
葵「えっと、どこに?」
駿「葵のお披露目に♡」
葵「え、ちょ、駿くん⁉」
駿に手を引かれ、講義室をあとにする葵。
みんなから注がれる視線が痛い。
〇校舎の外・12:10
駿「とりあえず腹減ったし、学食行く?」
葵「グゥ~(お腹の音)」
駿「斬新な返事の仕方だね」
ククッと駿に笑われ、かぁっと顔を赤くする葵。
学食に向かって歩いている途中。
葵&健吾「「あ」」
二人の友人とともに前から歩いてくる健吾に遭遇。
駿とつないだ手に視線を向け、顔が険しくなる健吾。
葵「えっと、健吾ね、ここの工学部の一年なの」
駿「ふうん。健気だねえ」
健吾「は? なにが言いたいんだよ」
駿「いや、別に?」
笑みを浮かべどこまでも余裕な感じの駿。
健吾の友人は興味津々で二人のやり取りを見つめている。
駿「特に用事がないならそろそろいいかな」
健吾「どこでも好きなとこ行けばいいだろ」
駿「じゃあ、そうするよ」
健吾「は⁉ おま……」
駿「うん? なにか言いたいことでも?」
健吾「いや、別に」※悔しそうな顔
健吾と別れてしばらく歩いてから。
葵「ねえ、健吾にはフリのこと、言ってもいいんじゃない?」
駿「なんで?」
葵「え、だって、ウソをつく理由がないし」
駿「ダメに決まってるでしょ。言いふらされたらどうすんの」
葵「じゃあ、口止めすれば……」
駿「人の口に戸は立てられないって言うでしょ」
葵「うん……」※浮かない顔
駿「ねえ、そんなにアイツにウソつくのイヤ?」
葵「イヤっていうか」
(健吾がイヤそうだったから)
(なんて言えないし)
駿「俺としては、アイツには信じたままでいてほしいんだけどな」
葵「へ⁉」
(それって、どういう意味?)
(ウソの関係が、本当になってくれたらいい……なんて思ってるわけないよね)
(ビックリしたなあ、もう)
「べ、別に、駿くんがその方がいいっていうならいいけど」
(でも、二人にはもうちょっと仲よくなってほしいんだけどな)
(だって、会うたびにいっつも険悪な雰囲気になっちゃうんだもん)
チラッと駿を見上げると、つないだままの葵の手の甲を自分の口に近づけていく駿。
葵「⁉」
駿「だから、本当にはしないってば」
葵にだけ聞こえるように言いながら、視線を反対側の歩道へと向ける駿。
駿の視線の先を見ると、「きゃあ」と小さく悲鳴を上げる女子三人組の姿。
葵(ほんと、抜かりないなあ)
〇法学部棟一階一番奥の部屋・15:00
扉には【N大法学サークル『LAW』】の札。
駿「へえ、こんなとこでやってんだ」
興味津々で部屋を見回す駿。
葵モノ『今日は、わたしが所属している法学サークルの活動日』
『事前に予約してくれた人の法律相談に無料で乗ったり、相談者がいないときはみんなで判例の検討なんかをしている』
駿「法学サークル、前から興味あったんだよね」
葵モノ『っていう駿くんを連れてやって来たんだけど』
葵(誰もいない)
しんと静まり返った室内。なんだか気まずい。
葵「も、もうちょっとしたらみんなも来ると思うんだけど」
と言いながら駿と距離を取り、壁際の長机の上に荷物を置く葵。
駿「じゃあさ、みんなが来るまで俺の相談に乗ってくれない?」
葵「へ⁉ わ、わたしに答えられるくらいのことなら、相談する必要なくない?」
駿「ただのヒマつぶし。練習だよ、練習」
葵「あー、そういうことね」
(問題を出してくれるってこと……だよね?)
二人で向かいあって机の前に座る。
葵「では、ご相談内容をお聞かせいだけますか?」※わざと改まった感じで
駿「実は、友人が先日事故を起こしまして。相手が急に飛び出してきたらしいんですよね。この場合、友人は罪に問われますか?」
ドクンドクンと早鐘のように心臓が打ちはじめる葵。顔色も悪くなる。
駿「葵、どうした?」
心配そうに葵の顔を覗き込む駿。
葵「あ、ご、ごめんなさい。交通事故を起こしたご友人が、罪に問われる——つまり起訴されるかっていうことですよね?」
「その事故に遭われた方は……お亡くなりになられたのですか?」
駿「そうみたいです」
葵「そうですか。実際の事故の状況がわからないのでなんとも言えませんが、飛び出しが原因で、運転者に重大な過失がない場合……不起訴となる可能性が高いかと思われます」
ギリっと奥歯を噛みしめる葵。
葵「ごめん。ちょっと気分が……」
ガタッとイスの音を立てて立ち上がると、トイレに駆け込む葵。
葵(なにやってるんだろ)
(お母さんの事故とは関係ないのに)
駿「葵、大丈夫?」
トイレの外から駿の心配そうな声が聞こえる。
葵「うん、大丈夫」
いつまでも閉じこもってるわけにはいかないと個室を出る葵。
葵「ごめんね、心配かけて」
駿「それはいいけど」
「体調よくないなら、今日はもう帰った方がいいんじゃない?」
葵「ううん。本当に、もう大丈夫だから」
駿「そんな無理しなくても、一日くらい——」
まだ心配そうな駿にカミングアウト。
葵「実はね、六年前に、お母さんが事故で亡くなったんだよね」
駿「え……」
葵「わかってるの。本当は、運転してた人は悪くないって。けど……」
(回想シーン)
母親が同僚と歩いているときに、ボールを追いかけて駐車中の車の陰から道路に飛び出そうとする子どもに遭遇。それに気付かず迫る車。慌てて止めに走った母親が子どもをかばって事故に遭う。
葵「お母さんの事故のことを言われてるのかと思って、ちょっとビックリしちゃっただけ。だから、本当にもう大丈夫。ごめんね」
ぎこちなく笑ってみせる葵。
駿「……」
動揺したような様子を見せる駿。
葵「駿くん?」
駿「ああ、ごめん。ちょっと用事あったの思い出したわ」
葵「そっか。じゃあ、またね」
駿「おお。悪いな」
葵(わたしがお母さんの話をしたから、気にしちゃったのかな)
部長「お疲れー」
葵「お疲れさまです」
廊下を歩いてきたサークルの部長(4年)に声を掛けられあいさつする。
部長「今日は、前回の相談内容の検討会だから。はじめる前にちゃんと復習しといてね」
葵「わかりました」
パンパン! と軽く頬を叩き、気合いを入れる。
葵「よしっ。集中、集中」



