〇裁判所前・12日13:10
葵「えっと……デートって、ここ?」
駿「そ。デート♡ ほら、早く行くよ」
先に歩き出した駿を追って葵も歩き出す。
二人で入っていったのは、この前の裁判所。
葵(傍聴なら傍聴って、みんなの前でちゃんとそう言ってくれればよかったのに!)
(っていうか、おめかしして来いなんて言うから、ちょっとだけ……がんばっちゃったじゃんっ)
気に入って買ったものの、着て出掛ける機会がなくタンスの肥やしになりかけていたパフスリーブのブラウスにマキシスカート。いつものメガネはかけているが、髪は緩い三つ編み。
駿「そうだ。めっちゃカワイイ、今日のコーデ」
くるりと振り向いた駿がさらりと言う。
葵「あ、ありがとう」
(ひょっとして、めちゃくちゃ張り切ってデートコーデしてきたって思われてる⁉)
(いやいや真に受けちゃダメだって。どうせみんなに言ってるんだから)
そう自分に言い聞かせるが、褒められて悪い気がするはずもなく、無意識のうちに足どりが軽くなる葵。
〇裁判所近くのカフェ・夕方
傍聴後、この前と同じカフェで再び傍聴の振り返り。
葵「最後に見た裁判、かなり長引きそうだったね」
駿「完全に双方の主張が食い違ってたもんな」
葵「被告は『400万円全額払った』、原告は『100万円しかもらってない』って言ってたもんね。そもそも社用車での事故って、事故を起こした社員が新しい社用車の購入費用を払わなきゃいけないんだっけ?」
駿「いや、その義務はないはずだよ」
葵「だよね。しかも400万円の車って高くない⁉」
駿「まあ金額もだけど、この場合『脅されて支払い誓約書を書かされた』っていうのが真実かどうかで話はだいぶ変わってくるだろうな」
葵「うん。脅されてる現場を見てたって人が、ちゃんと証言してくれるといいんだけど」
頬杖をついて葵をじっと見つめる駿。
葵「な、なに?」
駿「うん? 香月って、なんにでも真剣なとこがカワイイなって思って」
葵「へあ⁉」
駿の突然の「カワイイ」発言に慌てふためく葵を、ニコニコしながら見つめる駿。
葵「わ、わたし知ってるんだからね。みんなにそういうこと言ってるって」
(もうダマされたりしないんだから)
駿「だって、カワイイって思ったんだからしょうがなくない?」
葵(ひょっとして駿くんって、自分に正直な人ってだけなのかも……?)
(だからダマされちゃダメなんだってば!)
駿「俺さ、実は香月に頼みたいことがあるんだけど」
葵「『なんでも言って』はこれで終わりだからね!」
駿「あー、そっか。うーん、そんじゃ俺と取引しない? 香月にも悪い話じゃないと思うんだけど」
葵(これ絶対内容聞いたら引けなくなるパターンでしょ)
(でも、悪い話じゃないって)
(なら、話くらい聞いた方が……)
「……どんな取引?」
散々悩んだ挙句、恐る恐る尋ねる葵。
駿「俺と付き合——」
葵「丁重にお断りさせていただきます」
(いやだって、遊びたいから彼女は作らないってこの前言ってませんでした、この人⁉)
駿「だから最後まで話を聞けって。俺と付き合ってるフリをしてくんない? って話」
葵「やっぱり丁重にお断り——」
駿「司法試験合格が今んとこ一番大きな目標なんだけどさ。それ以外にも、大学生のうちに吸収できる知識はできるだけ吸収しておきたいんだよね」
葵(急に真面目モードになられると調子狂うんだけど)
駿「俺らももう三年だろ? だから正直遊んでる時間もあんまないっつーか」
「遊ぶのも正直飽きたっつーか」
葵(後の方が本音なんじゃないの?)
(やっぱクズ男じゃん)
「それで、わたしに女除けになってほしいってこと?」
(女子全員を敵に回すってことでしょ?)
(絶対イヤなんだけど)
駿「ま、わかりやすく言うとそういうこと」
「その代わりってわけじゃないけど、俺が一緒にいれば、香月がヘンなヤツに絡まれるリスクも減ると思うんだけど?」
葵(それは正直ちょっと助かるかも)
駿「それに、予備試験対策もバッチリ手伝ってやるから」
葵(よ、予備試験対策⁉)
「ぜひよろしくお願いします」
固い握手をする二人。
駿「葵ならそう言ってくれると思ってた」
そう言ってニッと笑う駿。
葵「き、急に下の名前で呼ばないでよ」
ドキッとした胸を押さえて。
駿「だって、付き合ってるフリするんなら当然でしょ」
「ほら、葵も一回練習してみ?」
葵「いや、でも……」
駿「へー。幼馴染は下の名前で呼べるのに、彼氏のは呼べないんだー」
葵「それはまた別の話っていうか」
駿「わかった。俺の下の名前知らないんだ」
「俺はちゃんと覚えてたのに」
「うわー、傷つくなー」
葵「し、知ってるし」
「駿……くん……でしょ?」
駿「うん、正解」
満足げに笑う顔がなんだかかわいくてドキドキする。
駿「名前呼んだだけで真っ赤になってる。やっぱカワイイ」
葵「ち、違うし」
さらに真っ赤になる葵。
葵(だから急にそういう発言するのやめてってば! 身が持たないからっ)
そのとき、葵のスマホのアラームが鳴る。
葵「あ、やばっ」
「予備校の日だから、そろそろ行かないと」
慌てて立ち上がると、駿も立ち上がる。
駿「俺も、このあとバイトだから」
葵「そうなんだ。さ……駿くんのバイト先はどこ?」
駿「M駅のあたり」
葵「じゃあ、わたしの予備校と一緒だね」
葵(どんなバイトしてるんだろう?)
(接客業だったら、お客さんがいっぱい来て大変そう)
女性客ですべての席が埋め尽くされたカフェを想像をする葵。
〇M駅の改札口・18:30
里菜「駿先生!」
改札の外で手を振る女子中学生・里菜に軽く手を振り返す駿。
葵(え、誰?)
里菜「待ちきれなくて、迎えに来てしまいましたわ。さあ、早く行きましょう」
改札を出た駿の腕にしがみつく里菜。
駿「葵、かてきょのバイト終わったら——」
里菜「この方、駿先生とはどのようなご関係なんですの?」
駿の言葉に被せるように言って、葵に牽制するような視線を向ける里菜。
駿「大学で同じゼミの香月葵さん。僕の友だちだから仲よくしてね」
里菜「駿先生のお友だちですか」※信じてなさそうな顔
葵「こ、こんにちは。よろしくね」※愛想笑いを浮かべて
里菜「ほら駿先生、早く行きましょう。あちらで車を待たせていますから」
葵の存在をなかったものとして駿の腕をぐいぐい引く里菜。
葵(守備範囲広いんですね、『駿先生』)
心の中で嫌味を言う葵。
葵(付き合ってるフリをしてほしいって言ってたのに)
(なのに『僕の友だち』?)
なぜかムカムカしてきて、ふいっと二人の後ろ姿から視線を逸らすと、資格予備校に向けて大股で歩き出す葵。
(別に全然いいんだけどね?)
(あの子に『付き合ってる』なんて言ったら面倒なことになりそうだし……どうせフリだしね)
(って、なんでこんなにイライラしてるんだろ、わたし)
〇予備校講義室・18:50
講義前、スマホの通知音が鳴る。
葵(あぶなっ。音切るの忘れてた)
慌てて通知音をオフ設定にしてから通知を見る。
葵(駿くんから?)
駿【10時までだよな? 迎えに行く】
葵【大丈夫だよ。一人で帰れるから】
と返信メッセージを打ち込んで送信ボタンを押そうとして手が止まる。
メッセージを消去して【了解】のスタンプを返す。
すぐさま既読が付く。
葵(なんであんなスタンプ送っちゃったんだろ)
二人の後ろ姿を思い出してなんだかモヤモヤ。
葵(あーもう、なんなのこれ)
必死に忘れようとして、テキストを開く。
葵(えーっと、今日はたしか刑事訴訟法の続きだから)
今日の授業の範囲に目を通そうとするが、なかなか集中できない。
葵(どうしちゃったんだろ、わたし)
〇香月家の前・夜10時半過ぎ
駿に家まで送ってもらうと、自転車でバイトから帰ってきた健吾と家の前でばったり出くわす。
健吾「は? なんでこんな時間に二人で帰ってくんだよ」
葵「予備校の日だから!」
「健吾もわたしが通ってるって知ってるでしょ?」
健吾「でも、なんでこいつと?」
「やっぱ葵、こいつと——」
駿「付き合うことになったけど? なにか問題ある?」
健吾「……いや、別に」
顔をそむけ門を開けて自転車を中に入れる健吾。途中で止まって二人の方を振り返る。
健吾「そうだ。そいつ、絡まれ体質なんで、せいぜい気をつけてやってくださいね」
駿「うん、知ってる」
と答える駿に向かってさらにムッとした表情を浮かべてから門の中へと消える健吾。
駿「そんじゃ、また明日な」
葵「ありがとう、駿くん。気をつけてね」
〇駅前商店街付近・夜11時前
ほとんどの店のシャッターがすでに閉まっている。
健吾「おい、あんた!」
駅に向かって歩く駿を走って追いかけ呼び止める健吾。
駿「なに?」
立ち止まって振り向く駿。
健吾「……遊びじゃないんだよな?」※超不機嫌そうな顔
駿「どういう意味?」※ニコニコ
健吾「だからっ……葵のこと傷つけたら許さねえから」
駿「ふうん。あんた、葵のこと好きなんだ」
健吾「はあ⁉ んなわけねえだろ」
駿「葵、言ってたよ。小さい頃、あんたにいじめられてたって」
健吾「べ、別にいじめてなんか……」
駿「あのなあ。本人がいじめだって思ったら、それは立派ないじめなんだよ。覚えとけ」※一瞬空気がピリッと変わる
健吾「っ……」
駿「ってことで、俺の彼女のこと、これ以上いじめないでね」
ニッコリ笑うと駅に向かって再び歩き出す駿。
健吾「……クソッ」
顔をおもいっきりゆがめると、健吾も自宅に向かって歩き出す。自然と漏れるため息。
そんな健吾の方を振り返り、じっと見つめる駿。
駿「年下の幼馴染に牽制って」
「だっさ」
葵「えっと……デートって、ここ?」
駿「そ。デート♡ ほら、早く行くよ」
先に歩き出した駿を追って葵も歩き出す。
二人で入っていったのは、この前の裁判所。
葵(傍聴なら傍聴って、みんなの前でちゃんとそう言ってくれればよかったのに!)
(っていうか、おめかしして来いなんて言うから、ちょっとだけ……がんばっちゃったじゃんっ)
気に入って買ったものの、着て出掛ける機会がなくタンスの肥やしになりかけていたパフスリーブのブラウスにマキシスカート。いつものメガネはかけているが、髪は緩い三つ編み。
駿「そうだ。めっちゃカワイイ、今日のコーデ」
くるりと振り向いた駿がさらりと言う。
葵「あ、ありがとう」
(ひょっとして、めちゃくちゃ張り切ってデートコーデしてきたって思われてる⁉)
(いやいや真に受けちゃダメだって。どうせみんなに言ってるんだから)
そう自分に言い聞かせるが、褒められて悪い気がするはずもなく、無意識のうちに足どりが軽くなる葵。
〇裁判所近くのカフェ・夕方
傍聴後、この前と同じカフェで再び傍聴の振り返り。
葵「最後に見た裁判、かなり長引きそうだったね」
駿「完全に双方の主張が食い違ってたもんな」
葵「被告は『400万円全額払った』、原告は『100万円しかもらってない』って言ってたもんね。そもそも社用車での事故って、事故を起こした社員が新しい社用車の購入費用を払わなきゃいけないんだっけ?」
駿「いや、その義務はないはずだよ」
葵「だよね。しかも400万円の車って高くない⁉」
駿「まあ金額もだけど、この場合『脅されて支払い誓約書を書かされた』っていうのが真実かどうかで話はだいぶ変わってくるだろうな」
葵「うん。脅されてる現場を見てたって人が、ちゃんと証言してくれるといいんだけど」
頬杖をついて葵をじっと見つめる駿。
葵「な、なに?」
駿「うん? 香月って、なんにでも真剣なとこがカワイイなって思って」
葵「へあ⁉」
駿の突然の「カワイイ」発言に慌てふためく葵を、ニコニコしながら見つめる駿。
葵「わ、わたし知ってるんだからね。みんなにそういうこと言ってるって」
(もうダマされたりしないんだから)
駿「だって、カワイイって思ったんだからしょうがなくない?」
葵(ひょっとして駿くんって、自分に正直な人ってだけなのかも……?)
(だからダマされちゃダメなんだってば!)
駿「俺さ、実は香月に頼みたいことがあるんだけど」
葵「『なんでも言って』はこれで終わりだからね!」
駿「あー、そっか。うーん、そんじゃ俺と取引しない? 香月にも悪い話じゃないと思うんだけど」
葵(これ絶対内容聞いたら引けなくなるパターンでしょ)
(でも、悪い話じゃないって)
(なら、話くらい聞いた方が……)
「……どんな取引?」
散々悩んだ挙句、恐る恐る尋ねる葵。
駿「俺と付き合——」
葵「丁重にお断りさせていただきます」
(いやだって、遊びたいから彼女は作らないってこの前言ってませんでした、この人⁉)
駿「だから最後まで話を聞けって。俺と付き合ってるフリをしてくんない? って話」
葵「やっぱり丁重にお断り——」
駿「司法試験合格が今んとこ一番大きな目標なんだけどさ。それ以外にも、大学生のうちに吸収できる知識はできるだけ吸収しておきたいんだよね」
葵(急に真面目モードになられると調子狂うんだけど)
駿「俺らももう三年だろ? だから正直遊んでる時間もあんまないっつーか」
「遊ぶのも正直飽きたっつーか」
葵(後の方が本音なんじゃないの?)
(やっぱクズ男じゃん)
「それで、わたしに女除けになってほしいってこと?」
(女子全員を敵に回すってことでしょ?)
(絶対イヤなんだけど)
駿「ま、わかりやすく言うとそういうこと」
「その代わりってわけじゃないけど、俺が一緒にいれば、香月がヘンなヤツに絡まれるリスクも減ると思うんだけど?」
葵(それは正直ちょっと助かるかも)
駿「それに、予備試験対策もバッチリ手伝ってやるから」
葵(よ、予備試験対策⁉)
「ぜひよろしくお願いします」
固い握手をする二人。
駿「葵ならそう言ってくれると思ってた」
そう言ってニッと笑う駿。
葵「き、急に下の名前で呼ばないでよ」
ドキッとした胸を押さえて。
駿「だって、付き合ってるフリするんなら当然でしょ」
「ほら、葵も一回練習してみ?」
葵「いや、でも……」
駿「へー。幼馴染は下の名前で呼べるのに、彼氏のは呼べないんだー」
葵「それはまた別の話っていうか」
駿「わかった。俺の下の名前知らないんだ」
「俺はちゃんと覚えてたのに」
「うわー、傷つくなー」
葵「し、知ってるし」
「駿……くん……でしょ?」
駿「うん、正解」
満足げに笑う顔がなんだかかわいくてドキドキする。
駿「名前呼んだだけで真っ赤になってる。やっぱカワイイ」
葵「ち、違うし」
さらに真っ赤になる葵。
葵(だから急にそういう発言するのやめてってば! 身が持たないからっ)
そのとき、葵のスマホのアラームが鳴る。
葵「あ、やばっ」
「予備校の日だから、そろそろ行かないと」
慌てて立ち上がると、駿も立ち上がる。
駿「俺も、このあとバイトだから」
葵「そうなんだ。さ……駿くんのバイト先はどこ?」
駿「M駅のあたり」
葵「じゃあ、わたしの予備校と一緒だね」
葵(どんなバイトしてるんだろう?)
(接客業だったら、お客さんがいっぱい来て大変そう)
女性客ですべての席が埋め尽くされたカフェを想像をする葵。
〇M駅の改札口・18:30
里菜「駿先生!」
改札の外で手を振る女子中学生・里菜に軽く手を振り返す駿。
葵(え、誰?)
里菜「待ちきれなくて、迎えに来てしまいましたわ。さあ、早く行きましょう」
改札を出た駿の腕にしがみつく里菜。
駿「葵、かてきょのバイト終わったら——」
里菜「この方、駿先生とはどのようなご関係なんですの?」
駿の言葉に被せるように言って、葵に牽制するような視線を向ける里菜。
駿「大学で同じゼミの香月葵さん。僕の友だちだから仲よくしてね」
里菜「駿先生のお友だちですか」※信じてなさそうな顔
葵「こ、こんにちは。よろしくね」※愛想笑いを浮かべて
里菜「ほら駿先生、早く行きましょう。あちらで車を待たせていますから」
葵の存在をなかったものとして駿の腕をぐいぐい引く里菜。
葵(守備範囲広いんですね、『駿先生』)
心の中で嫌味を言う葵。
葵(付き合ってるフリをしてほしいって言ってたのに)
(なのに『僕の友だち』?)
なぜかムカムカしてきて、ふいっと二人の後ろ姿から視線を逸らすと、資格予備校に向けて大股で歩き出す葵。
(別に全然いいんだけどね?)
(あの子に『付き合ってる』なんて言ったら面倒なことになりそうだし……どうせフリだしね)
(って、なんでこんなにイライラしてるんだろ、わたし)
〇予備校講義室・18:50
講義前、スマホの通知音が鳴る。
葵(あぶなっ。音切るの忘れてた)
慌てて通知音をオフ設定にしてから通知を見る。
葵(駿くんから?)
駿【10時までだよな? 迎えに行く】
葵【大丈夫だよ。一人で帰れるから】
と返信メッセージを打ち込んで送信ボタンを押そうとして手が止まる。
メッセージを消去して【了解】のスタンプを返す。
すぐさま既読が付く。
葵(なんであんなスタンプ送っちゃったんだろ)
二人の後ろ姿を思い出してなんだかモヤモヤ。
葵(あーもう、なんなのこれ)
必死に忘れようとして、テキストを開く。
葵(えーっと、今日はたしか刑事訴訟法の続きだから)
今日の授業の範囲に目を通そうとするが、なかなか集中できない。
葵(どうしちゃったんだろ、わたし)
〇香月家の前・夜10時半過ぎ
駿に家まで送ってもらうと、自転車でバイトから帰ってきた健吾と家の前でばったり出くわす。
健吾「は? なんでこんな時間に二人で帰ってくんだよ」
葵「予備校の日だから!」
「健吾もわたしが通ってるって知ってるでしょ?」
健吾「でも、なんでこいつと?」
「やっぱ葵、こいつと——」
駿「付き合うことになったけど? なにか問題ある?」
健吾「……いや、別に」
顔をそむけ門を開けて自転車を中に入れる健吾。途中で止まって二人の方を振り返る。
健吾「そうだ。そいつ、絡まれ体質なんで、せいぜい気をつけてやってくださいね」
駿「うん、知ってる」
と答える駿に向かってさらにムッとした表情を浮かべてから門の中へと消える健吾。
駿「そんじゃ、また明日な」
葵「ありがとう、駿くん。気をつけてね」
〇駅前商店街付近・夜11時前
ほとんどの店のシャッターがすでに閉まっている。
健吾「おい、あんた!」
駅に向かって歩く駿を走って追いかけ呼び止める健吾。
駿「なに?」
立ち止まって振り向く駿。
健吾「……遊びじゃないんだよな?」※超不機嫌そうな顔
駿「どういう意味?」※ニコニコ
健吾「だからっ……葵のこと傷つけたら許さねえから」
駿「ふうん。あんた、葵のこと好きなんだ」
健吾「はあ⁉ んなわけねえだろ」
駿「葵、言ってたよ。小さい頃、あんたにいじめられてたって」
健吾「べ、別にいじめてなんか……」
駿「あのなあ。本人がいじめだって思ったら、それは立派ないじめなんだよ。覚えとけ」※一瞬空気がピリッと変わる
健吾「っ……」
駿「ってことで、俺の彼女のこと、これ以上いじめないでね」
ニッコリ笑うと駅に向かって再び歩き出す駿。
健吾「……クソッ」
顔をおもいっきりゆがめると、健吾も自宅に向かって歩き出す。自然と漏れるため息。
そんな健吾の方を振り返り、じっと見つめる駿。
駿「年下の幼馴染に牽制って」
「だっさ」



