〇居酒屋(松葉ゼミ新歓コンパ)・夜
駿が女子の先輩たちに囲まれている。
お酒をチビチビ飲みながら遠くからその様子を眺める葵。
先輩女子1「駿くんって、なんで彼女作らないの?」
駿「だって、彼女なんかいたら遊べなくなっちゃうじゃないですか」
葵(うわっ、いきなりのクズ発言)
(いや、彼女がいないんだからいいのか?)
(そのために彼女を作らないなら意外と誠実……なわけないじゃん!)
ぶんぶんと首を左右に振る葵。
先輩女子1「だったらあたしとも遊んでよぉ。彼女いないならいいでしょ?」
駿「先輩、彼氏いますよね?」
先輩女子1「だからぁ、遊ぶだけだしぃ」
やたらベタベタと駿に触る先輩。
駿「すみません。俺、面倒ごとに巻き込まれるのだけはごめんなんで」
ニコニコしながら先輩に悟られないようさりげなく距離を取る駿。
先輩女子2「ならわたしとならいい? 最近彼氏と別れたし」
駿「もちろん。そういう人なら、いつでも大歓迎ですよ」
「じゃあ、わたしも、わたしも」と他の先輩たちからも声が上がる。
葵(はぁ~。一度でもときめいたわたしがバカだった)
(絶対に近づいちゃいけない人種だよ)
(そもそもわたしなんて眼中にないだろうけど)
大人っぽい先輩たちと、幼児体型の自分とを見比べて密かに落ち込む葵。
葵(どうやったら先輩たちみたいになれるんだろ)
(……って別に冴木くんに相手にしてほしいわけじゃないけどね⁉)
須藤「香月さぁん、ちゃあんと飲んでるぅ?」
ヘラヘラ笑いながらお酒のグラスを持って葵の隣に無理やり座る須藤。
葵「はい、いただいてます~」※愛想笑い
(うわっ、だいぶ酔っぱらってる)
(厄介な人につかまっちゃったなあ)
葵モノ『この人は、松葉ゼミのお手伝いをしてくれている大学院生の須藤さん』
『普段は真面目でおとなしいんだけど、酒グセが悪いって有名な人』
須藤「香月さんってぇ、何志望だっけぇ?」
葵「一応、検察官を目指してます」
須藤「ふぅん、検察官かぁ。ねえねえ、そんなのやめてさぁ、僕のお嫁さんにならない?」
葵「それは……ちょっと無理ですかねえ」
あははと引きつった笑みを浮かべる葵。
須藤「なんでぇ? 君に検察官なんて似合わないでしょぉ、どう考えても」
ぐっとグラスを強く握る葵。
葵「あはは、よく言われますー」
駿「須藤さん。今ちょっといいっすか?」
葵に須藤から離れるようジェスチャーをしながら駿が二人の間に割って入る。
駿「今日のゼミで扱った判例で、よくわからないところがあったんですけど」
須藤「はぁ? 君にわからないことが、僕にわかると思う?」
二重の意味で不機嫌そうに顔を歪める須藤。
駿「わかると思ってるから、聞いてるんじゃないですか。須藤さんの解説、いつもわかりやすくて、めちゃ頼りにしてるんですよ」
須藤「冴木くん……君くらいだよぉ~。僕の苦労をわかってくれるのはぁ」
感動しておいおい泣き出した須藤の背中をさする駿。
駿「そんなことないですよ。みんな言わないだけで、須藤さんのすごさ、ちゃんとわかってますってば」
葵(冴木くんって、ただの女好きじゃないんだ)
(こういう人のことを、人たらしっていうのかな)
感心しながら二人を見守る葵。
〇居酒屋前
お開きになり、店を出る。
「二次会行く人ー」「どうする?」というやり取りをする人たちから少し離れたところで。
葵「冴木くん、さっきはありがとう」
こっそり冴木くんに近づきお礼を言う葵。
駿「ガチで酒グセ悪いよな、須藤さん」※げんなりした顔
葵(あのあと須藤さんにめちゃくちゃ飲まされてたみたいだったけど)
「大丈夫、冴木くん?」
駿「超大丈夫」
青い顔で親指を立てて見せる駿。
葵(いや絶対大丈夫じゃないでしょ!)
「わたしにできることがあれば、なんでも言って」
「そうだ。お水でも買ってこようか?」
駿「なんでも?」
葵「う、うん。なんでも」
駿の目が一瞬キラッと光り、言ったことを後悔する葵。
駿「じゃあさ、今度俺とデートしてよ」
突然みんなに聞こえるような大きな声で言う駿。
周囲にいた男子も女子も一斉にざわつく。
葵「へ⁉」
(なんでもって、そういう意味じゃなかったんですけど⁉)
「で、デートって、アレですか? あの、男性と女性が一緒にお出かけする的な?」
駿「むしろそれ以外になにがあるの?」
クスッと笑う駿。
葵「そう、だけど……」
先輩女子2「ちょっと。わたしと遊んでくれるって話はどうなったの?」
駿の腕にぎゅっと抱きついて怒った顔をする先輩女子2。
駿「うーん。ごめんなさい、先輩。やっぱキャンセルで」
葵「いえ、わたしは遠慮させていただきますので、先輩とどうぞデートなさってください」
駿の言葉に被せるようにして言う葵。
駿「『わたしにできることがあれば、なんでも言って』ってさっき言ってたのに」
「ウソはよくないなあ」
葵(言ったけども! そういう意味じゃないんだってば~!!)
〇自宅自室・深夜
ベッドに横になり、枕を抱えて駿の発言を思い返す葵。
(家の中ではメガネを外し、髪は下ろしている+かわいい部屋着)
駿『じゃあさ、今度俺とデートしてよ』
葵(完全に酔い覚めたし!)
「そうだ。勉強でもしよ」
おもむろに起き上がって机に向かう葵。
葵「……って勉強なんかできるわけないし!」※頭を抱える
ぐるぐる部屋の中を歩き回る葵。(注:深夜徘徊中のハムスターではない)
ハッとなにかに気付く葵。
葵(そっか。わたし、からかわれてるんだ)
(あの冴木くんが、わたしをデートに誘うわけないじゃない)
(きっと動揺するわたしを見て笑いたかっただけ)
「あんな冗談を真に受けるなんて」
「あーもう、時間のムダ。ちゃんと勉強しよ」
もう一度机の前に座り直すと、黙々とシャーペンを走らせる葵。
葵モノ『弁護士や検察官、裁判官になるには司法試験に合格しなくちゃいけない』
『だけど、司法試験を受けるには、まず受験資格が必要』
『法科大学院の課程を修了した者』もしくは『司法試験予備試験に合格した者』←こっちを目指してる←冴木くんは合格済
『予備試験は司法試験と同じくらい難しくて、合格率はだいたい3~4%くらい』
葵「だから今は恋愛なんかにうつつを抜かしてる場合じゃないの!」
拳を握りしめ、硬い決意の表情を浮かべる葵。
葵(そういえば冴木くんって、予備試験受かってるんだよね)
(一年の頃からいっつも女子に囲まれてるイメージだったのに)
机の脇に飾ってある写真立てに目をやる。
ビシッとスーツを着たカッコいいお母さんと一緒に、中学の入学式の日に校門のところで撮った写真。
葵(わたしは、お母さんみたいなカッコいい検察官になるんだから)
「凹んでないで、がんばらなくっちゃ」
再び真面目に机に向かう葵。
そのとき、メッセージの着信音が鳴る。
傍らに置いたスマホを手に取ると、画面にはメッセージが届いたことを示す通知。
葵(冴木くんから?)
駿【12日午後1時、N城駅集合。とびっきりおめかししてきてね♡】
葵「ちゃんと断ったのに~!!」
再び机に突っ伏す葵。
駿が女子の先輩たちに囲まれている。
お酒をチビチビ飲みながら遠くからその様子を眺める葵。
先輩女子1「駿くんって、なんで彼女作らないの?」
駿「だって、彼女なんかいたら遊べなくなっちゃうじゃないですか」
葵(うわっ、いきなりのクズ発言)
(いや、彼女がいないんだからいいのか?)
(そのために彼女を作らないなら意外と誠実……なわけないじゃん!)
ぶんぶんと首を左右に振る葵。
先輩女子1「だったらあたしとも遊んでよぉ。彼女いないならいいでしょ?」
駿「先輩、彼氏いますよね?」
先輩女子1「だからぁ、遊ぶだけだしぃ」
やたらベタベタと駿に触る先輩。
駿「すみません。俺、面倒ごとに巻き込まれるのだけはごめんなんで」
ニコニコしながら先輩に悟られないようさりげなく距離を取る駿。
先輩女子2「ならわたしとならいい? 最近彼氏と別れたし」
駿「もちろん。そういう人なら、いつでも大歓迎ですよ」
「じゃあ、わたしも、わたしも」と他の先輩たちからも声が上がる。
葵(はぁ~。一度でもときめいたわたしがバカだった)
(絶対に近づいちゃいけない人種だよ)
(そもそもわたしなんて眼中にないだろうけど)
大人っぽい先輩たちと、幼児体型の自分とを見比べて密かに落ち込む葵。
葵(どうやったら先輩たちみたいになれるんだろ)
(……って別に冴木くんに相手にしてほしいわけじゃないけどね⁉)
須藤「香月さぁん、ちゃあんと飲んでるぅ?」
ヘラヘラ笑いながらお酒のグラスを持って葵の隣に無理やり座る須藤。
葵「はい、いただいてます~」※愛想笑い
(うわっ、だいぶ酔っぱらってる)
(厄介な人につかまっちゃったなあ)
葵モノ『この人は、松葉ゼミのお手伝いをしてくれている大学院生の須藤さん』
『普段は真面目でおとなしいんだけど、酒グセが悪いって有名な人』
須藤「香月さんってぇ、何志望だっけぇ?」
葵「一応、検察官を目指してます」
須藤「ふぅん、検察官かぁ。ねえねえ、そんなのやめてさぁ、僕のお嫁さんにならない?」
葵「それは……ちょっと無理ですかねえ」
あははと引きつった笑みを浮かべる葵。
須藤「なんでぇ? 君に検察官なんて似合わないでしょぉ、どう考えても」
ぐっとグラスを強く握る葵。
葵「あはは、よく言われますー」
駿「須藤さん。今ちょっといいっすか?」
葵に須藤から離れるようジェスチャーをしながら駿が二人の間に割って入る。
駿「今日のゼミで扱った判例で、よくわからないところがあったんですけど」
須藤「はぁ? 君にわからないことが、僕にわかると思う?」
二重の意味で不機嫌そうに顔を歪める須藤。
駿「わかると思ってるから、聞いてるんじゃないですか。須藤さんの解説、いつもわかりやすくて、めちゃ頼りにしてるんですよ」
須藤「冴木くん……君くらいだよぉ~。僕の苦労をわかってくれるのはぁ」
感動しておいおい泣き出した須藤の背中をさする駿。
駿「そんなことないですよ。みんな言わないだけで、須藤さんのすごさ、ちゃんとわかってますってば」
葵(冴木くんって、ただの女好きじゃないんだ)
(こういう人のことを、人たらしっていうのかな)
感心しながら二人を見守る葵。
〇居酒屋前
お開きになり、店を出る。
「二次会行く人ー」「どうする?」というやり取りをする人たちから少し離れたところで。
葵「冴木くん、さっきはありがとう」
こっそり冴木くんに近づきお礼を言う葵。
駿「ガチで酒グセ悪いよな、須藤さん」※げんなりした顔
葵(あのあと須藤さんにめちゃくちゃ飲まされてたみたいだったけど)
「大丈夫、冴木くん?」
駿「超大丈夫」
青い顔で親指を立てて見せる駿。
葵(いや絶対大丈夫じゃないでしょ!)
「わたしにできることがあれば、なんでも言って」
「そうだ。お水でも買ってこようか?」
駿「なんでも?」
葵「う、うん。なんでも」
駿の目が一瞬キラッと光り、言ったことを後悔する葵。
駿「じゃあさ、今度俺とデートしてよ」
突然みんなに聞こえるような大きな声で言う駿。
周囲にいた男子も女子も一斉にざわつく。
葵「へ⁉」
(なんでもって、そういう意味じゃなかったんですけど⁉)
「で、デートって、アレですか? あの、男性と女性が一緒にお出かけする的な?」
駿「むしろそれ以外になにがあるの?」
クスッと笑う駿。
葵「そう、だけど……」
先輩女子2「ちょっと。わたしと遊んでくれるって話はどうなったの?」
駿の腕にぎゅっと抱きついて怒った顔をする先輩女子2。
駿「うーん。ごめんなさい、先輩。やっぱキャンセルで」
葵「いえ、わたしは遠慮させていただきますので、先輩とどうぞデートなさってください」
駿の言葉に被せるようにして言う葵。
駿「『わたしにできることがあれば、なんでも言って』ってさっき言ってたのに」
「ウソはよくないなあ」
葵(言ったけども! そういう意味じゃないんだってば~!!)
〇自宅自室・深夜
ベッドに横になり、枕を抱えて駿の発言を思い返す葵。
(家の中ではメガネを外し、髪は下ろしている+かわいい部屋着)
駿『じゃあさ、今度俺とデートしてよ』
葵(完全に酔い覚めたし!)
「そうだ。勉強でもしよ」
おもむろに起き上がって机に向かう葵。
葵「……って勉強なんかできるわけないし!」※頭を抱える
ぐるぐる部屋の中を歩き回る葵。(注:深夜徘徊中のハムスターではない)
ハッとなにかに気付く葵。
葵(そっか。わたし、からかわれてるんだ)
(あの冴木くんが、わたしをデートに誘うわけないじゃない)
(きっと動揺するわたしを見て笑いたかっただけ)
「あんな冗談を真に受けるなんて」
「あーもう、時間のムダ。ちゃんと勉強しよ」
もう一度机の前に座り直すと、黙々とシャーペンを走らせる葵。
葵モノ『弁護士や検察官、裁判官になるには司法試験に合格しなくちゃいけない』
『だけど、司法試験を受けるには、まず受験資格が必要』
『法科大学院の課程を修了した者』もしくは『司法試験予備試験に合格した者』←こっちを目指してる←冴木くんは合格済
『予備試験は司法試験と同じくらい難しくて、合格率はだいたい3~4%くらい』
葵「だから今は恋愛なんかにうつつを抜かしてる場合じゃないの!」
拳を握りしめ、硬い決意の表情を浮かべる葵。
葵(そういえば冴木くんって、予備試験受かってるんだよね)
(一年の頃からいっつも女子に囲まれてるイメージだったのに)
机の脇に飾ってある写真立てに目をやる。
ビシッとスーツを着たカッコいいお母さんと一緒に、中学の入学式の日に校門のところで撮った写真。
葵(わたしは、お母さんみたいなカッコいい検察官になるんだから)
「凹んでないで、がんばらなくっちゃ」
再び真面目に机に向かう葵。
そのとき、メッセージの着信音が鳴る。
傍らに置いたスマホを手に取ると、画面にはメッセージが届いたことを示す通知。
葵(冴木くんから?)
駿【12日午後1時、N城駅集合。とびっきりおめかししてきてね♡】
葵「ちゃんと断ったのに~!!」
再び机に突っ伏す葵。



