あれから、女神様とはお会いしていない。
いつかお兄様と一緒にお会い出来ればと思う。
だから、わたしは祈ることをやめることはない。
この死に戻った世界で生きる機会を与えてくださったことに感謝し、そして…
愛すること、愛されることで生を実感できる世界——
「セレーネお義姉様、そんなに動かないでください。わたしがしますから」
「いや、身体を動かしていないと落ち着かないんだよ。それよりもアグネスが座っていなさい」
相変わらずセレーネとアグネスは仲が良い。
レオンが1週間に一度だけ騎士団の寮から戻っていただけだったラチェット家の屋敷はいまは賑やかなことになっていた。
アグネスが山奥の大聖堂から戻ってきたのだ。
晴れて自由の身になったアグネス。
ノアと一緒に通学することは叶わなかったが、最終学年の1年だけアグネスは学園に通った。
大聖堂で祈りの修行と、王妃教育の6年間は決して無意味なことではなく、学園では断トツの首席だったため、ほとんど人脈作りと青春の取り返しに通ったようなものになった。
山奥の大聖堂は修道院となり、大聖堂は新たに王城の近くに3年の歳月をかけて建設された。
先の魔獣討伐時で発覚した、魔獣を惹きつけるために殺されたたくさんの村人達の鎮魂も兼ねている。
聖騎士を目指していたレオンはあれからすぐに騎士団を辞し、今は新陛下を支える宰相補佐官として王城に勤める。
常に冷静で優秀なレオンは、未来の宰相だと世間では噂されているし、期待値も高い。
そして、レオンとセレーネの間には男の子が生まれた。いまはセレーネは2人目を妊娠中だ。
魔獣討伐後の王族派の粛正で忙しい最中に、セレーネの妊娠が発覚したのだ。
その報告を新陛下就任の舞踏会で、セレーネとのダンスを踊る最中に聞いたレオンは、普段は冷静なレオンがポロポロと涙を流し「セレーネとの幸せを実現したい」とホールのど真ん中で派手にプロポーズ。
大勢の方々に祝福された。
「まさか、あの魔獣討伐前にセレーネお義姉様がいつの間にかお兄様と仲直りしていただなんてね」
アグネスが悪戯っぽくセレーネに笑いかけると、セレーネが真っ赤にほお染めた。
「アグネスだってあの時、いつの間にかノアと恋仲になっていたではないか!」
一瞬でアグネスの頬が真っ赤になる。
「ノアが…」
アグネスはその当時のことをいろいろと思い出したのか、それだけで満面の笑みを浮かべた。
セレーネの側に控えていた執事長のロンがそんな様子のふたりを見て、目尻を下げる。
「アグネス、そろそろ時間だ。行こうか」
レオンがテールコート姿でアグネスを迎えに来た。
ウェディングドレス姿のアグネスを見たレオンが一瞬で感極まったのか、目をみるみる潤ませ口元を震わせるが、感情を抑えようと口元に手を当てた。
「——アグネス、綺麗だ」
震える声がアグネスにバレないように、精一杯レオンは普通を装う。
「お兄様、ありがとうございます。お父様の代わりをよろしくお願いしますね」
「もちろんだ」
その会話だけで再び口元を震わせるレオンを見て、セレーネはレオンにハンカチを渡し、レオンの肩を落ち着かせるように叩くとアグネスに語りかけた。
「いままでもこれからも弟と妹の幸せを無条件で実現させるのは兄と姉の務めだと思っている。私達、ふたりの願いを叶えてくれてありがとう。アグネス、幸せになるんだぞ」
レオンはハンカチで目頭を押さえている。
セレーネはレオンとアグネスをバージンロードへと、ふたりの背中をそっと押した。
アグネスとレオン、ふたりはバージンロードに並び立った。
その景色は、ふたりで一度は見たことがある景色。
でもあの時とは違う。
その先の祭壇の前にいるのはアグネスが愛する人。
兄が大事な妹を託せる男。
伸びた黒髪を綺麗にひとつに纏め、少し緊張気味に真っ直ぐにアグネスを見つめて待っている。
ノアはあれから王籍に復活するとすぐに新陛下として即位し、瞬く間に王族派を一掃し、国をひとつにまとめ上げた。
敵国との関係も正常化に向けて、ひとつひとつ進めている。次年度は両国に大使を設置することで合意している。
そして大聖堂の移転を決断し、教会のあり方を抜本的に見直し、腐敗した体制を排除した。
「お兄様、死に戻る前の景色が変わっているわ」
「そうだな。お互いの幸せを願った結果だな」
レオンが優しくアグネスに微笑む。
バージンロードの両横には、ノアの騎士団仲間やアグネスが学園で出来た友人達、ラチェット侯爵家を筆頭に貴族派として共にノアを支えた方々、ふたりをお祝いしたい人々が、いまかいまかと待ち侘びている。
ノアと一緒に待っているのは、司祭ではなくプロフェッサーことミラン学園長だ。
レオンはあの時、言えなかった言葉をアグネスに贈る。
「アグネス、結婚おめでとう」
fin
♢わたしに「生」への道を繋いでくれた最愛の兄へ捧ぐ♢
いつかお兄様と一緒にお会い出来ればと思う。
だから、わたしは祈ることをやめることはない。
この死に戻った世界で生きる機会を与えてくださったことに感謝し、そして…
愛すること、愛されることで生を実感できる世界——
「セレーネお義姉様、そんなに動かないでください。わたしがしますから」
「いや、身体を動かしていないと落ち着かないんだよ。それよりもアグネスが座っていなさい」
相変わらずセレーネとアグネスは仲が良い。
レオンが1週間に一度だけ騎士団の寮から戻っていただけだったラチェット家の屋敷はいまは賑やかなことになっていた。
アグネスが山奥の大聖堂から戻ってきたのだ。
晴れて自由の身になったアグネス。
ノアと一緒に通学することは叶わなかったが、最終学年の1年だけアグネスは学園に通った。
大聖堂で祈りの修行と、王妃教育の6年間は決して無意味なことではなく、学園では断トツの首席だったため、ほとんど人脈作りと青春の取り返しに通ったようなものになった。
山奥の大聖堂は修道院となり、大聖堂は新たに王城の近くに3年の歳月をかけて建設された。
先の魔獣討伐時で発覚した、魔獣を惹きつけるために殺されたたくさんの村人達の鎮魂も兼ねている。
聖騎士を目指していたレオンはあれからすぐに騎士団を辞し、今は新陛下を支える宰相補佐官として王城に勤める。
常に冷静で優秀なレオンは、未来の宰相だと世間では噂されているし、期待値も高い。
そして、レオンとセレーネの間には男の子が生まれた。いまはセレーネは2人目を妊娠中だ。
魔獣討伐後の王族派の粛正で忙しい最中に、セレーネの妊娠が発覚したのだ。
その報告を新陛下就任の舞踏会で、セレーネとのダンスを踊る最中に聞いたレオンは、普段は冷静なレオンがポロポロと涙を流し「セレーネとの幸せを実現したい」とホールのど真ん中で派手にプロポーズ。
大勢の方々に祝福された。
「まさか、あの魔獣討伐前にセレーネお義姉様がいつの間にかお兄様と仲直りしていただなんてね」
アグネスが悪戯っぽくセレーネに笑いかけると、セレーネが真っ赤にほお染めた。
「アグネスだってあの時、いつの間にかノアと恋仲になっていたではないか!」
一瞬でアグネスの頬が真っ赤になる。
「ノアが…」
アグネスはその当時のことをいろいろと思い出したのか、それだけで満面の笑みを浮かべた。
セレーネの側に控えていた執事長のロンがそんな様子のふたりを見て、目尻を下げる。
「アグネス、そろそろ時間だ。行こうか」
レオンがテールコート姿でアグネスを迎えに来た。
ウェディングドレス姿のアグネスを見たレオンが一瞬で感極まったのか、目をみるみる潤ませ口元を震わせるが、感情を抑えようと口元に手を当てた。
「——アグネス、綺麗だ」
震える声がアグネスにバレないように、精一杯レオンは普通を装う。
「お兄様、ありがとうございます。お父様の代わりをよろしくお願いしますね」
「もちろんだ」
その会話だけで再び口元を震わせるレオンを見て、セレーネはレオンにハンカチを渡し、レオンの肩を落ち着かせるように叩くとアグネスに語りかけた。
「いままでもこれからも弟と妹の幸せを無条件で実現させるのは兄と姉の務めだと思っている。私達、ふたりの願いを叶えてくれてありがとう。アグネス、幸せになるんだぞ」
レオンはハンカチで目頭を押さえている。
セレーネはレオンとアグネスをバージンロードへと、ふたりの背中をそっと押した。
アグネスとレオン、ふたりはバージンロードに並び立った。
その景色は、ふたりで一度は見たことがある景色。
でもあの時とは違う。
その先の祭壇の前にいるのはアグネスが愛する人。
兄が大事な妹を託せる男。
伸びた黒髪を綺麗にひとつに纏め、少し緊張気味に真っ直ぐにアグネスを見つめて待っている。
ノアはあれから王籍に復活するとすぐに新陛下として即位し、瞬く間に王族派を一掃し、国をひとつにまとめ上げた。
敵国との関係も正常化に向けて、ひとつひとつ進めている。次年度は両国に大使を設置することで合意している。
そして大聖堂の移転を決断し、教会のあり方を抜本的に見直し、腐敗した体制を排除した。
「お兄様、死に戻る前の景色が変わっているわ」
「そうだな。お互いの幸せを願った結果だな」
レオンが優しくアグネスに微笑む。
バージンロードの両横には、ノアの騎士団仲間やアグネスが学園で出来た友人達、ラチェット侯爵家を筆頭に貴族派として共にノアを支えた方々、ふたりをお祝いしたい人々が、いまかいまかと待ち侘びている。
ノアと一緒に待っているのは、司祭ではなくプロフェッサーことミラン学園長だ。
レオンはあの時、言えなかった言葉をアグネスに贈る。
「アグネス、結婚おめでとう」
fin
♢わたしに「生」への道を繋いでくれた最愛の兄へ捧ぐ♢
