死に戻り聖女は兄の願いを叶えたい〜気づいていないけど、無償の愛に包まれています〜

 現世と異界が繋がっている場所を副団長と何人かの騎士を伴ってノアとレオンが捜索に出てから、だいぶ時間が経った頃、野営地がにわかに騒々しくなっていた。
 
 アグネスとセレーネは救護の仕事がひと段落したので地面に座りながら、警備の係から外された他の女性騎士達数名と車座になり談笑をしていた。
 明日は王都に帰るだけなので、今晩はみんなで夜通しおしゃべりをしながら夜を明かそうとなったのだ。
 もちろん、甘いお菓子や飲み物はないが、それでもアグネスは憧れていた「友人との夜通しのおしゃべり」というものが少し違う形だけど実現できて、それだけでうれしく感慨深いものがある。
 聖女だということでアグネスを遠巻きに見ていた女性騎士たちに声を掛けてくれたセレーネに感謝だ。
 聞けば、女性騎士達はほぼ同年代でこれで全員だという。少数精鋭でどの方も自分に自信を持っており、とてもキラキラと輝いて見える。その中でもセレーネは皆を引っ張っていく存在らしく、アグネスはすごい人が義姉になったことを実感するとともに、改めてセレーネの強さを実感していた。


「ここに居たのか」
 少し疲れた表情のノアがアグネスを探しに来た。野営地がにわかに騒がしくなったのは捜索に出てたレオンやノア達が帰ってきたからだったのだ。
 
「お疲れ様でした。例の場所はもしかして見つかったの?」
「俺の予想通り見つかった。屈強な騎士でも耐えがたい凄惨な現場だが、アグネスの魔法の力で現世と異界が繋がっている場所を塞ぐ協力をお願いしたい。一緒に来てくれるか?」
 少し心配そうにそれでも真っすぐにアグネスを見つめるノアに、それを返すようにノアを熱っぽい瞳で返すアグネス。
 ノアとアグネスが甘い視線を交わし、ふたりだけの微笑ましい世界を作っているのを他の女性騎士達が横で生温かい目で見守る。
 しかし野営地の外で2.3人の騎士がうずくまり、同僚に介抱されているのが見える。一緒にいた女性騎士たちもそれを目の当たりし、全員が捜索で何が起こったのかと顔をしかめた。

「ノア、あそこの方達も捜索に行ってた人達だよな?あのような状態になるぐらいその場所は凄惨な現場なのか?」
 セレーネがみんなの声を代表するように口を挟むと、ノアは「そうだ」と普段のノアには見れない硬い表情で答えた。
 強張っているノアの表情でその現場がどれほど酷いものであるのかが伝わってくる。
 ノアとセレーネのやり取りを冷静にアグネスは見ていたが、ノアのお願いを断る理由などアグネスには見つからない。
「わたしの魔法の力が役立つかも知れないなら、もちろん一緒にいくわ。光魔法は使えないけど、他のどんなことでもやってみるわ」
 アグネスがすぐに快諾すると、すかさずに「私も行くぞ」とセレーネもすぐに応えた。
 後から遅れてやってきたレオンがそれを聞いて、セレーネに渋い顔をしたのは言うまでもない。

 新たに洞窟に向かう隊が動ける者だけで編成された。
 逢魔時以外にも異界と現世がつながり魔獣が再び大量にやってくることは避けるためにも、早くその繋がっているところを閉じなくてはならない。
 すぐさま洞窟に向かうことになった。
 出来れば、本隊が明朝に王都に帰還するときには合流しておきたいことを踏まえると、現世と異世界を繋ぐ空間を閉じる作業にかけられる時間はあまりない。
 多少の危険を承知で、真夜中近い時間にも関わらず出発することになった。
 

「アグネスはこの臭いを感じないのか?」
 セレーネが持ってきていたハンカチで鼻と口を覆い、その上から手でも押さえている。
「そうね。死に戻っている身体だから、空気が澱んでいるのは感じるのだけど、臭いはさほど——」
 現場に到着し、いまはノアと副団長と何人かが洞窟の中に捜索に行っている。
 アグネスとセレーネは洞窟がよく見えるところで待機していた。
 その洞窟の入り口付近に山のようになっている死体をまじまじとひとりで観察をしているレオンを見て、アグネスとセレーネは顔を見合わせる。
「どうやら、レオンも同じようだな。先日の大聖堂でも焚くと酩酊し意識を失う薬草を焚いているのに、レオンは死んでいるから自分には効かないと言っていた。改めて君たちの死に戻りを実感するよ」
 少しため息混じりでセレーネがぼやく。それでも少し口角を上げて、言葉を続けた。
「でももう大丈夫だ。ふたりともきっとこのまま生きていけるはずだ。レオンは普通の女の子の生活をしたいという「アグネスの願い」を叶えたし、アグネスもアグネスの幸せという「レオンの願い」も叶えた。そうだろう?あとはアグネスの気持ちだけだ。聖女として自信を持つんだ。だからあと2日で天に召されて死ぬなんて考えるな」
 
 ——あとはわたしの気持ちだけ——
 わたしが自信をもつこと。
 それは「アグネスの願い」も「レオンの願い」も実現していくには必要不可欠なことだ。
 しかし、癒しの魔法と言われる光魔法が使えない中途半端な自分が幸せになる?普通の生活ができる?
 聖女?笑わせる。
 わたしは全く自信がない。
 先ほどセレーネ様にその懸念していることを相談した。
 12歳から18歳までの多感な時期の6年間を大聖堂で虐待をされ続けたために、自分はどうしても自信が持てなくなっていた。何度も逃げ出せる機会もあったはずなのに、逃げ出せるはずがないと全てを諦め、司祭達に虐待されても、もう逆らう気持ちもなくなっていた。
 祈る努力をし続けることで、自信のない自分をカバーしてきた。
 だからきっとこんなわたしは、女神様との契約を果たせずに天に召される。もしかすればお兄様も…
 ずっとその不安と暗い気持ちがある。
 
「アグネス、そんな顔をするな。きっと大丈夫だ。そしてここに来ると決めたのもアグネス自身だろう?一歩ずつアグネスは成長している。だから自信を持つんだ。アグネスなら、魔法の力で現世と異界が繋がっている場所を閉じることができるよ。私も一緒に祈るから、どうか自信を持ってくれ。その手で未来を切り拓くんだ」
 セレーネの瞳がみるみる潤みそうになる。

「セレーネ様こそ、そんな顔をしないでください。あとはわたしが自身を乗り越えるだけ。見ていてください。必ずやり遂げて、お兄様もわたしも生きてみせます。少しお兄様のところに話しに行ってきますね」
 
 アグネスは兄に確認したいことがあった。
 ひとりで洞窟の入口の見張りをしながら、死体の山を観察する兄の元に行った。