最強純血乙女の獣夫後宮 ~末世の逆ハーレム無双譚~

居間は戦場の如く、花恋はもう居たたまれない。

彼女は寝室に戻り、じっくり策を練ることにする。末世前の経験から、戦功こそ発言権を得る鍵だ。

観察によれば、基地の武力は主に雄性が担う。獣化期が迫り、巡回隊は戦力を欲しているはず。獣化期で暴走する独身雄性に対抗する――これこそ、正式編制に潜り込む好機かもしれない。

深い思案に沈み、知らず床辺に腰かけ、布団に手を置く。すると、布の感触が妙に異なる。

まるで柔らかな羽毛のよう。

花恋はハッと振り返り、布団に人が隠れていることに気づく。

心臓が跳ね、彼女は勢いよく布団を剥ぐ。

そこには男が横たわり、静かに縮こまる。深い夢に沈むかのよう。

その顔は息を呑むほど美しく、末世前の古画に描かれた神祇が地上に降臨したかのよう。肌は透明に近い白さで、淡い磁器の輝きを放つ。長く濃い睫毛が瞼下に柔らかな影を落とし、高い鼻梁、薄く結ばれた唇は儚い弧を描く。

銀白の長髪が枕に散り、月光の糸のように流れる。彼全体が現実離れした光暈に包まれる。

花恋は息を止め、つい見惚れ、警戒を忘れる。

背には純白の翼が生え、絹のような羽毛が重なり、朝露を宿す軽やかさ。だが、翼は力なくシーツに垂れ、活力がない。

花恋は眉を寄せ、近づいて見ると、翼の根元に異変――羽がまばらで、不自然な断痕がいくつも。乱暴に切り取られ、隠された痕跡だ。

試しに羽を軽く引くと、冷たく、反応なし。

男は動かず、呼吸すら揺らがない。

花恋の胸に緊張が走る。これは眠りではなく、昏睡だ。

「こんな大男、どうやってバレずに運び込んだ?」彼女は訝しむ。

脳内で小玉が「ピッ」と鳴る。「スキャン中…対象:雄性半獣人、鷹族特徴、推定20歳。心拍40、体温35.2℃、深度昏睡状態。検出:高濃度鎮静剤、12時間以内の覚醒は不可。翼根部に最近の剪羽痕、自主飛行不能。」

「推論:他の鷹族半獣人が運び、二階バルコニーから侵入。」

花恋は頭痛を堪え、こめかみを揉む。この半獣人ども、どいつもこいつも手段が荒っぽい。

視線はベッド脇の金属工具箱に落ちる。複雑な鷹紋が刻まれ、冷たく光るその箱は、部屋の温もりと不釣り合いだ。

彼女はしゃがみ、慎重に箱を開ける。整然と並ぶ薬剤瓶、背筋が凍る名前のラベル――「深眠酮」「幻彩素」「狂熱針」…昏睡用の鎮静剤、幻覚剤、興奮剤まで揃う。各瓶に精密な注射器が付き、何かの「計画」のための準備だ。

箱底に折り畳まれた紙片。花恋が広げると、娟秀な文字でこう書かれていた。「純血人類雌性清枝花恋様へ、この贈り物が無尽の愉悦を。鷹族敬上。」

落款には翼を広げる鷹の絵、鋭い線なのに歪み、悪ふざけの気配が漂う。

誰が愉悦だって?

花恋は紙を振って、答えがないと知りつつ眉をひそめる。「こいつとどんな恨みがあるの?」

あの虎は縛られても意識はあった。だが鷹族は…この男の生死をまるで顧みず、壊されることを期待しているかのようだ。

考えただけで変態的。花恋は紙をゴミ箱に放り込む。

工具箱を漁り、覚醒剤を探す。意外にも見つかり、注射器に薬を充填し、彼を起こそうとする。

その時、背後で物が落ちる音。花恋は驚き飛び上がる。

「す、すみません! ノックを忘れて…こんな、高度な遊びを…」

またあの小狐だ。イン・エントロピーがしゃがみ、慌てて持参の服を拾う。

「どうぞ続けてください。服は一度洗います、邪魔しません。」

花恋は誤解を解きたく、彼の大きな尾を掴む。

イン・エントロピーは顔を真っ赤にし、耳と尾――狐族の敏感な部位が震える。

「うっ、そこ! ダメ…」彼は小さく叫ぶ。

花恋は事態に気づかず、急いで言う。「見てよ、ただ覚醒剤を打って起こそうとしてるだけ!」

彼女の手はまだ尾の根元を握りしめる。

イン・エントロピーは両手で赤い顔を覆い、目を出せない。

「目隠して何? 早く見て! 私、君が思うような色欲魔じゃないよ!」

彼は蚊の鳴くような声で抗議。「あなた…色欲魔…」

「え? 聞こえないよ。」

イン・エントロピーは我慢の限界。歯を食いしばり、顔を赤くして声を絞り出す。「…尾、放してください。」

花恋は彼が不快だと気づく。順手で掴んだだけ、腕を掴む感覚だったが…

触り心地が最高だ。

ふわふわ、柔らか。ずっと触りたかった大尾、握ると手放せない。

「ごめん、ごめん! 痛かった?」

「…いえ。」イン・エントロピーは唇を噛み、本音を隠す。

軽薄な狐じゃないぞ、と思いつつ。

痛がらない彼に、花恋は少し名残惜しむ。

「痛いなら揉んであげるよ?」

彼は慌てて両手で尾を守る。「いりません! あなた…近づかないで。まず、こいつの状態を確認します。」

話題を逸らし、彼はベッドの反対側に回る。

「え?」イン・エントロピーは男の顔を見て、驚愕の色を浮かべる。

「鷹族が送ったのが、こいつ…? 姑上が断ると思ってた。」

「ん?」花恋は気を引き締め、天使のような男を真剣に見つめる。「何か問題?」

「起こさないで。」

イン・エントロピーは即答し、工具箱を一瞥。「こいつは六人の雌性を死なせた。証拠がなく、連盟は裁けない。…鷹族の現当主はこいつの姉だ。こんな女たらしの雄性、貞操もとうにないだろうに、鷹族はよくも送ってきたな。」

花恋は初めて、この純朴な小狐の顔に、徹頭徹尾の嫌悪を見た。連盟法を熟知していなければ、目の前の男を今すぐ殺しかねない勢いだ。