最強純血乙女の獣夫後宮 ~末世の逆ハーレム無双譚~

清枝花恋は瞬時に悟った。あの大猫が自分を見て命がけで襲いかかってきた理由――彼女を獣性が暴走した雌性と勘違いしたのだ。

「条文、よく覚えたね。次は暗唱しないで。」

彼女はすばやくその場を離れ、二階へ駆け上がり、使い慣れた古い軍装に着替えようとする。イン・エントロピーが慌てて後を追う。

「なんでついてくるの?」

「最高指揮官の命令です。あなたの安全を守るため。」

花恋は彼の華奢な体躯を一瞥。さっきの虎より頼りなさそう。

さっきのレツエン戦は辛勝だった。純粋な体力なら彼女は敵わない。頭脳で上回ったからこそ勝てたのだ。

「なら、ちょっと頼みごとどう?」花恋が提案する。

イン・エントロピーは頷き、耳の白い毛先までピクピク揺れる。「清枝上校、ご指示を。」

「用意された服、サイズが合わないの。XLに変えてもらえる? 小さすぎて、外で着るの恥ずかしい。浴袍だけがまあまあ合うくらい。」

イン・エントロピーは自分が誤解していたことに気づき、顔を赤らめる。「失礼しました。すぐ手配します。」

花恋が再び下りると、軍装に着替え終えていた。

レツエンがまだ口枷をいじっているのを見て、誤解の一件と十分な罰を考え、取り外してやろうとする。

だが、近づいた瞬間、レツエンの拳が振り上げられ、花恋は咄嗟に身を屈め、再び彼の喉を締め上げる。

「また暴れたら、このまま顔に溶接してやる!」

レツエンは動きを止め、目の攻撃性がわずかに和らぐ。

花恋は考える。簡単に解放すれば、また殴り合いになる。この男には教訓が必要だが、傷つけるほどではない。

彼女は片手で彼の顎を掴み、品定めするように見つめる。「舌、出して。」

レツエンの瞳が激しく揺れ、彼女の意図を測りかねる。

「汚いから手ぇ出したくない。」花恋は落ち着いて言う。

レツエンは渋々従う。雌性の中には雄性にこうさせる者がいると知っている。彼は花恋が跪かせ、尊厳を踏みにじる気かとさえ思う。

だが、花恋の軍刀が閃き、レツエンの舌系帯が切られ、口内に一抹の血が滲む。

「これで借りを返した。帰っていいよ。」

彼女は口枷を外す。外見に残る傷ではない。むしろ発音を明瞭にしつつ、彼女に抑えられた記憶を刻む。

「帰る?」レツエンは驚き、口から血が滴る。「お前…」

「残りたくないなら、帰ればいい。」花恋は気ままに言う。

こんな結末、雌性に辱められ拒絶されるとは思わなかった。

レツエンの胸に渦巻く怒りは、さっきの殺意とは異なる。

彼はよろめき一歩進み、片手で花恋の後頭部を押さえ、力強くキスする。血腥い舌を彼女に味わわせようと。

濃厚な血の味が口内に広がり、花恋は本能的に逃げようとするが、理性が告げる――これはレツエンの報復だ、怯むな!

彼女は彼の前襟を掴み、ソファに押し倒し、徹底抗戦の構え。

その時、ドア外から堂々とした男の声が響く。

「白昼の淫行! 世も末、道徳の崩壊だ! 恥知らず! 下劣!」

声の主は碧い鹿角の男、高慢な若旦那の風貌。後ろには同じ鹿角の男が控え、諫める。「若様、ご主人様にその口調はご法度と、ご当主が…」

「ふん。」若旦那は白目を剥く。「俺の部屋はどこだ? 日当たりのいいのがいい。緑が多いとなお良し。」

花恋はレツエンの胸筋に手を置き、身を起こす。愛想のない態度で勝手に住み込む若旦那を眺める。

また厄介者が来た!

後ろの従者が高EQで通訳する。「若様は妻主様に仕える準備が整っております。毎週土日、夜七時から九時がご奉仕の時間帯。九時以降はご休息を。睡眠が浅く、同衾は慣れません。」

花恋が口を開く前に、レツエンが軽蔑の舌打ち。「何様だ、土日を独占? 実力で勝負しろ!」

花恋は額を叩く。もう戦うな、新品の家が廃墟になる!

彼女はレツエンの口を塞ぎ、穏やかに言う。「無理強いは嫌いだ。ご令息が気に入らないなら、お帰りください。」

「幼稚だな。俺は命令で来た。愛だの恋だの、子供じみた遊びじゃない。」

若旦那は上目遣いで彼女を断じる。一瞥もせず、一階の部屋を指す。「あそこだ。庭に綺麗な木芙蓉があった。豊叔、荷物を運んでくれ。整頓するぞ。」

彼は重々しい表情で、屈辱を耐えるかのように部屋へ向かう。

花恋は肩をすくめる。嫌々なら、積極的な奴よりマシ。普通の同居人くらい我慢できる。

いや、二人か? 従者付きとは何だ?

振り返ると、レツエンが血のついた口元を腕で拭う。不満げに彼女を睨み、「後から来た奴が先に選ぶのかよ? 俺の部屋はどこだ?」

花恋は眉をひそめる。この男、絶対置いちゃダメ!

服を整え、ゆっくり言う。「誰が住んでいいって? 毎日噛みつく狂犬はいらん。」

レツエンは彼女の顎を掴み、一字一句強調。「俺は虎だ!」

「犬の方がマシ。忠実だし。」

彼女は玄関を指す。「今すぐ、ここから出てけ。」

屈辱を受けたかの如く、レツエンが怒鳴る。「さっきキスしたくせに、追い出す?」

「自分から寄ってきたんだろ。」花恋はこの世界の倫理観を借り、揶揄する。「軽い男だな。」

レツエンは怒りで反論できず、軽んじられぬよう、礼盒を蹴って気晴らしに家を出る。

花恋は荒れた室内を見て、急いで小玉を呼ぶ。「小玉、家務システムに接続できる?」

「はい、上校。接続中、復旧まで三時間。あなたの対応は見事でした。雄性一人を追い出し、計画通り強気を貫いてください。」

花恋は得意げに笑う。攻撃こそ最強の防御だ。

その時、街に機械音の警告が響く。

「警告、警告。獣化期ピークまで60時間。」

「24時間以内に不定期の小ピークが発生。住民は警戒を。青年巡回隊が危険を排除します。」

「基地安全のため、12時間後、60歳未満の未婚成獣雄性は追放。皆が無事に獣化期を乗り切ることを祈ります。」