最強純血乙女の獣夫後宮 ~末世の逆ハーレム無双譚~

「喋れる?」清枝花恋は試すように尋ね、刀の切っ先を口枷に近づける。「これ外してやるから、暴れないで、いいね?」

虎族の半獣人、レツエンは彼女を睨み、喉からくぐもった唸りを絞り出す。同意のようだ。

花恋は慎重に口枷を外す。鉄の装置が「カチン」と床に落ちる。

次の瞬間、落ち着きのない虎が跳ね起き、蛮力で縛縄を裂き、手首を動かしながら歯軋りする。「熊の心も豹の胆も食った気か! 俺の妻主だと? ぶっ潰してやる!」

花恋は冷笑する。せっかくの親切を無下にされるとは。「潰す? いいよ、口より拳で勝負だ。ここでやろう、どっちが潰れるか!」

レツエンは一瞬呆け、虎耳がピクンと揺れ、目に狂熱が宿る。「手加減しねえぞ!」

花恋は鼻を鳴らし、軍刀を腰に差し戻す。素手で格闘の構えを取る。「刀なんか使わん。壊しちゃ悪いし。」

レツエンが咆哮し、花恋に飛びかかる。暗金色の雷光のような速さで、右爪が彼女の喉を狙い、鋭い爪先が無慈悲に閃く。

花恋の目が鋭くなり、身を沈めて致命の一撃を紙一重でかわす。爪風が髪をかすめ、鋭い呼啸を残す。

彼女は反撃に転じ、右拳を砲弾のごとくレツエンの心臓に叩き込む。空気が鈍い音を立てる。

居間は戦場と化し、家具が倒れ、木の床に爪痕と拳の跡が刻まれる。

騒ぎを聞きつけたのか、窓外に観衆が集まる。塀を登る者、庭に群がる者、驚嘆の声が響く。

「この雌性、頭おかしい!? レツエンと互角にやり合うなんて!」

「これが純血人類か? 強すぎだろ! レツエンすら抑えられない!」

二人は激しく打ち合い、容赦ない攻防を繰り広げる。

戦いは十数分続き、汗だくで服はボロボロ、だが両者とも闘志を燃やす。

レツエンの体力は洪水の如く、每一撃が空気を裂く。花恋は特種訓練の技で軽やかに動き、正確に攻める。

彼女は意図的にペースを落とし、レツエンの大振りな攻撃を誘う。隙を探り、ついに彼が跳び上がり、両爪で喉を狙った瞬間、彼女は横に滑り込み、背後に回る。全力で虎尾を掴み、思い切り引く。

レツエンはバランスを崩し、茶卓を倒して木屑を撒き散らし、床に倒れる。

花恋は隙を与えず、飛びかかり、膝で背を押さえ、片手で喉を締める。声は冷たく、「降参する?」

レツエンは荒々しく息をつき、虎耳が一瞬垂れるが、突然豪快に笑う。窓が震えるほどの声。「痛快! すげえ戦いだ、もう一回!」

その目に敗北の影はない。

花恋は先ほどの口枷を拾い、彼の口に押し込む。

こんな大物を片付けるのは、烏合之衆を相手にするより骨が折れる。疲労困憊だ。

「うーうー。」大猫が唸る。

花恋は手を叩き、立ち上がり、興奮する観衆を見やる。

雌性たちは歓声を上げ、花恋の武力を称える。虎族一の勇士を抑えたのだ。雄性たちはレツエンを罵り、妻主への忠誠を証明しようと必死だ。

「この雄性、三日打たねば屋根に登る。反逆もいい加減にしろ!」

花恋は見世物に付き合う気はない。外へ出て手を振る。「解散!」

誰も動かず、彼女をじろじろ見つめ、秘密を暴こうとする。

昨日、小玉と話した策を思い出す。強気でいかなきゃ。

「さっさと散らないと、まとめてぶっ飛ばすよ!」

一瞬、悲鳴が上がり、皆が逃げ散る。命からがらの勢いだ。

振り返ると、大猫は口枷を必死に外そうと手を動かすが、まるで外れない。

花恋は疲れ果て、茶を注いで彼の無駄な奮闘を眺める。

猛虎も意気消沈する時がある。彼は仕方なく花恋の傍に寄り、口を指し、拝むような仕草をする。

「さっき助けてやったのに、恩を仇で返された。もう一度助ける理由がない。」花恋は目を逸らす。

いい人を演じてもろくな目に遭わない。あの目、最初から警戒すべきだった。

レツエンはこんな屈辱、初めてだ。またしても彼女を睨むが、さっき彼女に組み伏せられた記憶が、強烈な羞恥を呼び起こす。

頼むなんて論外、目すら合わせられない。

彼は拗ねて頭を下げ、壁の隅に蹲る。体力さえ回復すれば、もう一戦して、この雌性に賭けを認めさせ、こいつを外させる。

その時、別荘のドアベルが鳴る。

「清枝上校、その…起きてますか? 朝食を持ってきました。」

レツエンが声の主を見る。花恋が扉を開け、若い狐人が立つ。

レツエンはイン・エントロピーを軽蔑の目で見る。

弱小な狐族、自己がない、誰にでも媚びる。

蛇族も似たようなもの、ただ目的は明確で、陰険で笑みに刃を隠す。

鹿族は最も気取ってる。大義を掲げ、連盟の主気取りか?

鷹族? まるで精神疾患の巣窟。狂ってる、みんなくそくらえ。

やっぱり虎族の漢が最強だ。そう思うと、レツエンは笑いたくなるが、口が閉じられず、ただ苛立つ。

その時、イン・エントロピーが彼に気づき、驚愕の表情を浮かべる。

花恋の寝袍、レツエンの口枷を交互に見る。

「す、すみませんでした! こんな…派手な遊びをなさってるなんて…」

声はどんどん小さくなり、何かを想像して顔が赤く染まる。

普段ならこんな場面でも動じない。復興派とはいえ、ウイルスに侵され獣性が抑えきれず、基地の日常に慣れている。

だが昨日、姑であり最高指揮官のイン・リリが言った。あと二ヶ月で彼は成獣になり、その時…

イン・エントロピーは考えを振り切り、朝食を花恋に押し付けて逃げようとする。

だが二歩進み、理性が彼を引き戻す。公務がある。清枝上校の護衛だ。

「申し訳ありません、指揮官の命令で離れられません。お二人、続けてください。」

「続けるって何?」

花恋は彼の頭に渦巻く葛藤や心理戦に気づかない。

イン・エントロピーは表情を抑え、プロの護衛らしい顔を作る。

「ご安心を。連盟雌性保護法、第二十一条第三項に基づき、雌性が楽しむ際、協力が不要な場合、在席の雄性は視線を控えねばなりません。」