最強純血乙女の獣夫後宮 ~末世の逆ハーレム無双譚~

ランドの言葉を聞き取った瞬間、清枝花恋の顔が真っ赤に染まった。

ゆっくり身を引こうとしたが、この直白な蛇に一気に食い尽くされそうな恐怖に駆られ、三メートル跳び退った。

イン・エントロピーが咄嗟に彼女の前に立ち、ランドに高らかに叫ぶ。「何を言った!? 彼女を怖がらせるな!」

ランドは彼を軽く一瞥し、イン・リリに視線を移す。「指揮官様、母からはこちらに未成獣の小狐がいる話は聞いておりません。」

イン・リリは眉を上げ、からかう。「もう嫉妬? 妬く雄性は雌性に嫌われるわよ。」

「まさか。」ランドは微笑みを浮かべ、「ただ…連盟法によれば、未成獣の婚配は監護者に刑罰が下る。指揮官様、狐族の焦りは理解しますが、この手段は少々品がないかと。」

「ハハハ!」イン・リリは大笑いし、狐目を細める。「誰がこの小僧を婚配させるって? 私はただ、地主の務めとして、貴重な雌性に貼り付く護衛を用意しただけ。…違法じゃないよね?」

ランドとの短いやり取りに、八百もの策略が垣間見え、花恋は頭痛を覚えた。

末世前、彼女は祖国に尽くす一心で恋愛すら知らず、こんな局面はまるで手に負えない。

「退散できる?」彼女は前のイン・エントロピーに囁く。

彼の狐耳がピクリと揺れ、余光で彼女を一瞥し、低く答える。「静かに。俺がカバーする。」

その声は柔らかくも確固、こうした急場を慣れたように響く。

花恋は頷き、心臓が速まる。ここで「商品」として割り当てられるつもりはない。

イン・エントロピーはさりげなく身をずらし、ふわふわの尾で花恋を隠す。イン・リリとランドが互いに皮肉を言い合う隙に、彼女をゆっくりと扉へ導いた。

「よし。」彼は安堵の息をつき、手首の電子スクリーンを呼び出す。「清枝上校もお疲れでしょう。基地には専用の部屋が用意されています。位置を確認します、少々お待ちを。」

花恋はほっとし、頷く。「了解。」

「D-13区です。こちらへどうぞ。」

花恋はイン・エントロピーに従い、基地の廊下を進み、部屋に着いた。

扉が滑り開き、広々とした瀟洒な空間が現れる。小別荘のようで、部屋数も多く、三つの庭まで備わる。

「広すぎない? 一人でこんな家、使えないよ。掃除も大変そうだし。」花恋は考える。

「掃除は家務智械が処理します。面積については…連盟では成獣雌性に住宅を用意し、返祖現象が強い雌性ほど多くの雄性配偶を持つため、より広い住まいが割り当てられ、夫婦の共同生活に備えるのです。」

その言葉に、花恋は再び憂いを帯びる。

「ねえ、実は君のこと、すごく尊敬してる。」彼女はイン・エントロピーに言う。

彼は即座に警戒し、両手で服のジッパーを固く守る。

花恋は苦笑し、手を広げる。「そういう意味じゃないよ…。私、君と同じで、結婚に興味がないの。末世前はウイルス研究に没頭し、人類の滅亡を防ぐのが夢だった。今も変わらない。子作りじゃなく、ウイルスを根絶したい。」

イン・エントロピーは彼女に深い敬意を覚えた。

「理解しました、清枝上校。指揮官様の命令に背くことになりますが…俺はあなたを支えます。どうぞゆっくりお休みください。」

彼は去ろうと一歩踏み出し、だが躊躇い、振り返る。琥珀色の瞳に気遣いが宿る。「そうそう、連盟法では、雌性が望まぬ結婚を誰にも強制できない。あなたは完全に自由です。」

花恋は一瞬呆け、すぐに安堵し、感謝の目を向ける。「ありがとう、イン・エントロピー。」

彼は柔らかく微笑み、「何かあればいつでも呼んでください。」軽く頷き、去る。扉が音もなく閉まる。

一方、最高指揮官の執務室。

イン・リリは椅子にだらりと凭れ、二郎腿を組む。足首の金鈴が揺れ、チリンと澄んだ音を立てる。

彼女は机前のランドを一瞥し、口元に笑みを浮かべる。「人がこっそり逃げちゃったのに、追いかけないの?」

ランドは両手をポケットに、悠然と答える。「私の誤算でした。追いかけても嫌われるだけです。」

「自覚があるだけマシね。」イン・リリは眉を上げ、興味深げに。「で、どう挽回する気?」

ランドは微笑み、目に狡猾な光が閃く。「蛇は冷たく、静かに絡みつくもの。私のやり方があります。」

イン・リリは大笑いし、机を叩く。「面白い! あんた、思ったより腹黒いわね。」

「指揮官様、一つ伺っても?」ランドが低く言う。

「自惚れ屋の小僧が私に教えを乞うなんて?」イン・リリは欠伸し、「言ってみなさい。」

ランドは慎重に問う。「あなたや私の母のような、一族を率いる頂点の雌性は、なぜ他の雌性のように多くの雄性配偶を持たないのですか?」

「母上が教えてなかった?」

ランドは首を振る。

イン・リリは二本の指を立て、「二文字。面倒。」

「私は雄性を娶らないだけ。楽しむのは別よ。公務で手一杯、責任を負う暇はない。あなたの母上は…」彼女は一瞬言葉を切り、軽く笑う。「父上が教えてただろ? 私が答えるまでもないよね?」

答えは言わずとも明らか。

「感謝します、指揮官様。今後もお世話になるかと。」ランドは頭を下げ、謙虚ながら自負を滲ませ、「では、失礼します。」

イン・リリは彼の意図を察し、立ち上がり、見送りながら強調する。「清枝花恋はただの雌性じゃない。その価値をよく量りなさい。早く来たからって、父上のようには独占できないわよ。」

ランドは答えず、鋭い瞳が僅かに深まる。