最強純血乙女の獣夫後宮 ~末世の逆ハーレム無双譚~

基地最上階、複数のホログラム投影が一斉に輝きを放つ。

月刃衛隊最高指揮官イン・リリは欠伸を噛み殺していた。人間のような外見だが、獣耳も獣尾もない。ただ、軍緑色のレギンスの下、どこからかふわふわの狐脚が覗き、ピンクの肉球が愛らしい。足首には金の鈴が揺れ、チリンと清らかな音を響かせる。

「嫌だと? ふん! 末世前の雌性だぞ、復興派の希望だ! 気絶させてリボンで縛り、贈り物箱に詰めてでも送り届けなきゃならん!」虎耳の老者が苛立ちを露わに言う。

鹿角の老者が腕を組み、落ち着いた声で続ける。「三日後の獣化期ピークは猛烈なウイルスが襲う。獣化度の低い成獣でも、雌性の慰めがなければ耐えられん。まして、獣化の苦痛を抑える術を学ばなかった者なら尚更だ。子を思うなら、躊躇うな。」

舌をチロリと出す美女が微笑む。「みなさんの子がそんな気分でも、うちの子は先手を打つわよ。」

翼を持つ若い娘が乱れた羽を吹き飛ばし、笑う。「夢でも見てな、叔母さん。うちの馬鹿弟は羽を切り落としたわ。これで妻主にいじめ放題、へへ。」

イン・リリは姿勢を正し、皆を笑顔で見つめた。「旧友の皆、理想に溺れすぎじゃない?」

一同の目に緊張が走る。「まさか、独り占めする気か?」

「何ですって?」イン・リリは手を広げ、肩をすくめる。「我々はまだ、彼女が望むかどうかも知らない。末世前の人類は一夫一妻制だったんでしょ?」

その時、扉がノックされた。

イン・リリは即座にホログラムを消す。「最高指揮官様、雌性清枝花恋を連れて参りました。謁見を願います。」

彼女は椅子から飛び降り、扉を開けた瞬間、鋭い狐目が花恋を捉えた。花恋より半頭低いが、熱烈に抱きついた。「愛しい人、あなたが清枝花恋ね? 私は最高指揮官、イン・リリよ!」

イン・エントロピーは任務完了とばかりに礼をし、退こうとした。

「待ちなさい!」イン・リリが厳しく言う。「あなたも花恋と一緒に入りなさい。」

花恋に視線を戻すと、彼女は眩しい笑顔でソファに誘う。「閣下。」花恋は彼女を観察し、意図を探る。「私は…」

「この世界を知りたいのよね? そして、ここでどう生きるか。」イン・リリが即座に言葉を継ぐ。

まさにその通り。花恋は頷く。「だから、私は…」

「焦らないで。まず大事な情報から見ていきましょう。」

イン・リリが投影を操作すると、履歴書が浮かぶ。「花恋、この男、格好いいと思わない?」

花恋は困惑する。「???」

警戒と疑問を抱きつつ、目が正直に答える。「格好いい。」

「じゃあ、この子は? この子も、あとこの子…」イン・リリが興奮気味に続ける。

最後、彼女はイン・エントロピーを指す。「うちの甥っ子も美形でしょう? あと二ヶ月で成獣よ。その時なら…」

花恋は目を丸くし、彼女の意図に気づいて慌てて手を振る。イン・エントロピーの顔も真っ赤だ。「指揮官、何を!? 私は幼い頃から月刃衛隊に命を捧げると誓ったんです!」

イン・リリは不満げに言う。「愚かな雄性! ウイルスによる遺伝子欠陥で、雄性は成長するほど獣化の影響を受ける。成獣になれば、伴侶なしでは下等な仕事さえ雇われない。月刃衛隊なんて夢のまた夢よ。」

花恋は好奇心をそそられ、問う。「雌性は獣化の影響を受けないんですか?」

「受けるわよ、愛しい子。」イン・リリは優しく微笑む。「雌性は雄性より体が弱く、獣化に耐えきれず多くが死に絶えた。今生きる雌性は過酷な遺伝子選別の果てに残った者。獣化ピークでも理性を保てるの。」

花恋は納得する。強靭な雄性は理性なくとも生き延びるが、華奢な雌性は理性がなければ生き残れない。だからこそ、男尊女卑ならぬ女尊男卑の世界が生まれたのだ。

その時、扉が再びノックされる。「イン指揮官、蛇族の特使が到着しました。」

「早いわね。」イン・リリは冷たく鼻を鳴らす。「甥に近水楼台の機会も与えてくれないなんて。」

彼女は虚空スクリーンを滑らせ、扉を開けた。

白いシャツの男が静かに歩み入る。二十歳そこそこ、肌は白く、眉目清麗、獣の特徴は一切ない。彼は丁寧にイン・リリに頭を下げ、視線を花恋に移した。

「私はランド。母の命で参り、妻主様の歓心を得にまいりました。」

あまりに直白な言葉に、花恋もイン・エントロピーも呆然とする。

「恥知らず。」イン・リリが小声で呟き、甥を肘で突く。「見習いなさい!」

花恋は慌てて立ち上がり、オークション場の種付けの運命を逃れたばかりなのに、基地でまた配偶を押し付けられるなんて耐えられない。

彼女はそっと後退り、試すように言う。「あなた、人間と変わらないじゃない…。せっかくの若さ、知らない相手と無理に結ばれる必要ないよね?」

オークションの蛇族司会者は異形だったが、目の前の男とはまるで別種だ。

いくら人間に似て美形でも、結婚を強制されるなんて、まして一度に二人、後に三人も四人も…。

狐族の科学力が強大でなければ、ウイルスが外で猛威を振るわなければ、彼女は今すぐ斬り抜けて逃げ出したい。

「妻主様、ご存じないかもしれません。」

ランドは慎重に手を差し伸べ、触れるのを避けた。

花恋も疑いと試探を込め、指二本を差し出す。

冷たい。人間の体温とはまるで違う。

「これだけ?」

花恋はまだ大差ないと感じる。イン・エントロピーのふわふわの耳や尾に比べれば。

ランドは一歩近づき、身を屈め、花恋の耳元に囁く。

「もう一つの違いは、妻主様だけにお伝えします。」

「ん?」

「蛇には二本の…」