最強純血乙女の獣夫後宮 ~末世の逆ハーレム無双譚~

「これは末世前の雌性、完全な状態で南極氷河に数百年封じ込められ、本日ついに解凍された逸品です!」

地下オークション会場は熱狂に包まれ、すべての視線が最後の目玉商品に注がれていた。

オークション台に横たわる清枝(きよえ)花恋(かれん)は、周囲の喧騒に苛立ちを覚えた。彼女は力を振り絞って目を細め開こうとしたが、眩しい照明に阻まれ、ひとまず諦めるしかなかった。

「ご覧ください!」オークション司会者が熱を込めて叫んだ。「この雌性の筋肉組織は完全な状態!触れれば、驚くほどの弾力が感じられますよ!」

誰かに触れられた瞬間、花恋は我慢の限界を迎えた。全身の違和感を堪え、勢いよく身を起こし、目を無理やり開いた。

目の前には揺らめく人影が群がっていた。よく見れば、それは人間とは程遠い存在――牛の頭を持つ者、馬の顔をした者、異形の怪物たちだった。

花恋は思わず自分の頬を叩いた。

「これは……地獄にでも落ちたのか?」

蛇の尾を揺らし、舌をチロチロ出す司会者は歓喜に沸いた。「見てください、生きています! 開始価格は倍、いや、十倍に跳ね上げます!」

オークション席にいた参加者たちは一斉に立ち上がり、興奮を抑えきれず前に進み出た。

「生きている純血人類だと?」

「本物か機械か、せめて触らせて確認させてくれ!」

「こんな完璧な人類雌性、もし生殖機能が残っていれば、俺だけでなく子孫まで苦しまずに済む!」

花恋は状況を完全に把握できていなかったが、彼らの言葉の裏に潜む欲望を瞬時に察した。

司会者が前列の参加者を呼び寄せた。「どうぞ、どこを触っても構いません。顧客は神様です!」

貪欲な手が彼女に伸びる瞬間、花恋は本能的に腰の軍刀を抜いた。氷封されていた彼女は、事故当時の軍装を身にまとい、軍刀は錆ひとつない輝きを放っていた。

刀の柄を握りしめ、筋肉が緊張する。長年の軍事訓練が一瞬で蘇った。

空気には貪欲と変異の悪臭が漂い、彼女の頭脳は高速で状況を分析した。この生物たちは人間ではない。2050年に戦った敵とも異なる、奇怪な混成体だ。

だが、危険は危険。彼女は決して触れさせない。

低く唸り、軍刀が正確な弧を描いて最も近い生物の手を斬り落とした。緑色の血がオークション台に飛び散り、蛇尾の司会者が驚愕の嘶きを上げ、舌を狂ったように震わせた。

群衆の興奮は混乱に変わった。花恋は残影と化し、刀光が眩い照明の下で閃く。

牛頭の参加者の不器用な捕獲を低く身を屈めてかわし、刀をその脇腹に突き刺す。旋回し、馬面の爪撃を弾き返した。眩暈が残る体でも、戦闘モードは自動的に発動していた。

次々と参加者が倒れる。逃げようとする者も、異形の四肢が絡まり転倒するが、花恋は容赦しなかった。

彼女はオークション台を跳び越え、昆虫のような大顎を持つ逃亡者に飛びかかり、刀をその頭蓋に突き刺した。地下ホールは悲鳴、咆哮、死体が倒れる鈍い音で満たされた。

数分でオークション会場は墓場と化した。人とも獣ともつかぬ死体が散乱していた。

花恋は荒々しく息をつき、死体の山の中心に立つ。軍装は色とりどりの血で汚れ、胸が激しく上下する。彼女は冷静さを取り戻そうと自分を叱咤した。安全はまだ確保されていない。外にはこの連中の仲間がいるかもしれない。

彼女は手がかりを求めた。「小玉(こゆき)…」と低く呼び、脳皮質に埋め込まれたAIアシスタントを起動した。2050年のウイルス研究任務で、データ処理と戦術支援を担った頼れる相棒だ。

「小玉、起動。」

頭蓋内に微かなブーンという音が響き、明瞭な合成音が応えた。「システム起動。清枝上校、ご無事で何より。現在のファームウェア:3.7.2。警告:本バージョンは大幅に古いため、即時更新が必要です。更新しますか?」

花恋は眉をひそめ、死体のボロ布で軍刀を拭った。「古い? 冗談だろ。いい、更新しろ。急げ。」

「更新開始。所要時間:三分。しばらくお待ちください。」

三分など待てない。

彼女は金属鱗の死体にしゃがみ、所持品を漁った。手のひらサイズの光るデバイスが目に入る。画面が微かに輝き、2050年のどんな機器よりも進んでいる。

画面に触れると、ホログラムインターフェースが展開し、情報ログが表示された。

「末世513年、南極氷庫より純血人類サンプルを入手。予想収益:千万獣幣。」

花恋は目を瞠った。末世を阻止しようとした彼女は、事故で氷河に落ち、すでに五百年以上が過ぎていた…。

彼女の知る世界――チーム、任務、古代ウイルスとの戦い――は跡形もなく消えていた。これは新しい地獄、少なくとも今は独りで立ち向かうしかない。

鋭い目でログを読み進める。情報は「ヴォイニッチオークション」と呼ばれる地下取引網を指し、彼女のような「末世前遺物」を扱う。このオークションはその一端にすぎない。

頭蓋内に澄んだ合成音が響く。「更新完了。ファームウェア:5.1.3。現環境に適応済。新機能:ローカルネット侵入、変異生物データベース、戦術最適化。清枝上校、ご指示を。」

花恋の口元に笑みが浮かぶ。小玉の頼もしさが僅かな安心をもたらした。

「ゆっくり読む暇はない。小玉、この通信機をスキャン、すべてのデータを抽出。ヴォイニッチオークションの背景、ウイルス情報、俺の氷封記録を優先しろ。」

「スキャン中…警告:外部信号干渉を検知。直ちに移動を推奨。武装勢力が接近中です。」

同時に、扉の外から整然かつ急な足音が響く。軍隊の行進のようだ。

花恋は身を硬くし、片手で刀を握り、通信機を軍装のポケットに押し込んだ。オークション台の影に身を隠し、入口を睨む。

「ガン!」

重い金属扉が叩き開かれ、兵士の一隊が流れ込んだ。暗灰色の装甲に身を包み、肩章には三日月模様。ふさふさの狐尾を揺らし、狐耳が微かに震える。怪物とは異なり、人の顔を持つ彼らはまだましに見えた。

兵士たちは奇妙な形状のライフルを構え、銃口が幽藍に輝く。尋常な武器ではない。

花恋は息を潜め、状況を分析する。訓練された動き、統率された行動。オークション場の烏合之衆とは別格だ。

隊を率いる士官は若い雄性半獣人だった。白い縁取りの狐耳、琥珀色の瞳に冷静な光。清秀な顔立ちが印象的だ。彼は死体の山を一瞥し、眉を僅かに寄せ、手を上げて部下に指示した。

「武器を下ろせ!」低く響く声に威厳が宿る。「標的は全滅。現場に残るは…オークション品一つだけだ。」