「そう見えるかな?君もアサのことを大切に思ってるんだね。君みたいなしっかりした子がそばにいるなら、俺も安心できるな。」
ヨルはそう言ってオレのことを一瞥すると何もなかったかのようにその場を立ち去った。
一見会話は成立しているようだが、あいつは何一つ俺の言葉に耳を貸していない。
その時悟った。こいつは腹の見えない男だと。誰にでも優しそうな顔をしておきながら腹の奥では何を考えているのかまるでわからない。
しばらく警戒していたが、学年が上がるにつれて流石に兄妹としての距離感は正常なものになっていった。
まだ完全に安心できるわけではないが、随分懸念点は減っただろう。
あの男がでしゃばらなくなった今がチャンスだ。
鈍感でオレの気持ちに気づかないあいつに苛立ちと、同時に安堵も感じる。アサのそばにいるだけで幸せだ。でももう、それだけでは満足出来ない。
オレはいつまでこの想いを隠すことが出来るのだろうか。
