「ほら、好きなの選んで…って、え!?どうした?」
自分でも気づかないうちに、涙が出てしまっていたようだ。
小さい頃、泣き虫だとからかわれるのが恥ずかしくて、大きくなってからは気をつけていた。でもやっぱりお兄ちゃんの前ではうまくいかない。
「アサはよく泣くんだね。ほら、顔洗っておいで。」
骨ばった人差し指で目尻の涙を掬い、優しく頭を撫でられる。
きっとお兄ちゃんは、私が泣き虫だったことも忘れているんだろう。私が泣く時は、いつだってお兄ちゃんが関係していることも。
こんな気持ちになるぐらいなら、私もお兄ちゃんのことを忘れることが出来たらよかったのに。
◆
「も、もうお腹いっぱい…」
「もういいの?じゃあ俺が全部食べちゃうよ。」
