「あはは、俺が11歳の時にはもう今のアサより大きかったんだ。」

「ちょっと、気にしてるんだから!」

「可愛いってことだよ。この家には俺が覚えてないアサの記録がたくさんあって、心地いいな。」


ゆっくりと線を撫でながら話す。普通なら記憶を無くせば不安で、もっと取り乱したっていいはずなのに、お兄ちゃんはずっとこんな様子だ。まるで何も失っていないかのように、いつも通りに振る舞う。その言動に焦りは一切感じられない。


「自分の家に、自分の知らない痕跡があるのは変だと思わないの?」


ついそう尋ねると、目をぱちりと開いて驚いたような顔をした。


「うーん、たしかに不思議かもな。でも、なんだか懐かしい感じがするんだ。初めて見たはずなのに、ずっと昔から俺の傍にあったみたいだ。」

「…変なの。」

「俺たちはずっと一緒にいたんだろ?何も変じゃない。」