そうするとアサは先程まで泣きじゃくっていたのが嘘のようにニコニコと笑いだした。なんでも真似をしたくなる時期で、この行為が気に入ったのだろう。


それからアサは何か怖いことがあると安心を求めるようにキスをねだった。窓が光るほど大きな雷が落ちた時、布団から幽霊が出てくる映画を見た時、アサの顔ほどの大きさのクモが家に出た時。


キスをするたび、安堵するように笑うアサの顔を見るのが辛かった。兄という立場を利用して彼女の傍に居るくせに、兄としてしか見られていない事実に酷く心がざわめく。
本当はわかっている。あの子を傷つけるのが怖いんじゃない、拒絶されて、自分が傷つくのが怖いんだ。
こんな自分勝手な気持ちをアサに押し付けるわけにはいかない。