初めは少し警戒していた。人を好きになれない僕が、誰かに心を許すことなんて絶対に出来ないのだから。また傷つくくらいなら、初めから期待しなければいい。
そう思っていたのに、彼女は僕の予想を遥かに超えてきた。
優しい彼女につい甘えてしまって、身の程知らずな行動をしてしまった。
借り物競争の本当のお題は「好きな人」だった。彼女に直接伝える勇気なんてもちろんなくて、下手なごまかしをしてしまったけれど。
彼女の性格を体現したような柔らかくて暖かい手。心臓が爆発しそうになって、もうほとんど覚えていないけれど、あの温もりだけは今でも覚えている。
彼女の言葉に、優しさに触れる度に心が暖かくなる。冷え切った僕の心を溶かすように彼女は微笑む。その光に触れたくて、手を伸ばすけれど光を掴むことは出来ない。
彼女のことが好きだと自覚した時にはもう遅かった。
光に近づけば近づくほど影は濃くなる。彼女の優しさに触れる度に、自分の狡猾さに嫌気がさす。
僕を好きにならない君が好きだった。始まる前に気づけてよかった。
君になら忘れられてもいい。もう十分な程に明るい光を貰ったから。
