キスしたら、彼の本音がうるさい。

紅葉が散りはじめて、
朝晩の空気が、少しずつ冷たくなってきた。

それでも、彼の横にいると、指先まであたたかくなれる。

「月菜、こっちこっち」

学食の前、待ち合わせ。
先に席を取ってくれていた瑛翔が、私に手を振る。

「わっ……珍しく早いね」
「今日寒かったから、ちょっとでも温かい場所にいようと思って」
「そういう理由?」
「……あと、早く会いたかったから」

その言葉に、思わず顔が熱くなる。
まだ慣れない。
でも、こうやってちゃんと伝えてくれるのが、たまらなく嬉しい。


その日、私は少しだけ風邪気味だった。

「大丈夫? 声、かすれてる」
「ん……ちょっとだけ。のど、やられたみたい」
「今日はうち、来ない?」
「えっ……でも、迷惑じゃ……」
「俺が呼んでるんだから、いいの」

彼の部屋。
ベッドの端に座って、ブランケットを羽織っていたら、
キッチンからスープの香りがふわっと届いた。

「……まさか、自炊?」
「インスタントだけどな。玉ねぎだけは切った」
「うそ、涙流しながら?」
「流してないし……すごいな、君、まだツッコむ元気あるじゃん」

渡されたスープは、熱すぎず、ちょうどよくて。
何より、彼が作ってくれたってだけで、泣きそうになった。

「……ありがと」
「なんかあったら、すぐ起こして」
「うん。……となり、寝ていい?」
「聞くなよ。もう、寝るもんだと思ってた」

その夜、背中にあたたかい体温があった。
腕が、私の腰にまわって、
深くは触れないまま、でもしっかり包んでくれて。
夢の中でも、私はきっと、瑛翔に寄りかかってたと思う。


やがて季節はまた巡って、春。

桜が咲いた日、ふたりで駅前の公園に寄った。

「……来年も、再来年も、月菜と見たい」

隣でそう呟いた彼の手を、私はそっと握り返した。

強くじゃなくて、優しく。
まるで、彼の言葉を、そのまま包むように。

いくつもの季節を超えて、
私は今、たしかにこの人の“彼女”で、
彼もまた、まっすぐに私の“彼氏”だった。

そのことが、何よりも確かで、幸せだった。