今年の夏は、例年よりもずっと暑かった。
だけど、彼の隣にいると、汗さえも、少しだけ心地よく感じるから不思議だ。
「わっ……浴衣、ほんとに着てくれたんだ」
「うん。どう? 似合ってる?」
「……ちょっと、他の人には見せたくないかも」
「え……なにそれ、そういうのずるい……!」
頬が熱くなるのは、夏のせいだけじゃない。
手をつないで歩く夜の参道は、ちょうちんの灯りと、金魚すくいの水音と、どこか遠くで鳴る花火の音に満ちていた。
人混みの中、彼が私の手を引いて歩く。
繋いだ手はずっと離さないままで。
「こっち、空いてる。……少し休もう」
瑛翔が連れてきてくれたのは、
神社の境内の裏手にある、ひと気のないベンチだった。
隣に座っても、彼は何も言わない。
でも、その沈黙が、妙に落ち着く。
「……来てよかった?」
「うん。すっごく楽しい。ありがとね」
「いや、こっちこそ」
彼がそう呟いて、私の髪にそっと触れる。
結い上げた髪を見ながら、ぼそっと言った。
「……反則。似合いすぎて、ほんと困る」
心臓が跳ねる。
視線を落として、慌てて笑う。
「そんな……瑛翔の方こそ。
いつもと違って、なんか“大人の彼氏”って感じで……かっこいいなって」
「……“彼氏”って言われるの、何回目でも照れるな」
「ふふ。私も、“彼女”って言われるの、ちょっと嬉しい」
空に小さな花火があがった。
その音と光の中で、
彼の手が、指先から絡んでくる。
そのまま、そっと私の方を向いて、
唇が、ほんの少しだけ近づいた。
不意打ちのキス。
浴衣の襟元に、彼の指がそっとふれる。
誰にも見られないように、
でも確かに、そこにだけ世界が閉じ込められていた。
そのあと、ふたりで夜風に当たりながら、
ずっと、手をつないだまま歩いた。
夏が、ゆっくり終わっていく。
けれど、彼のぬくもりだけは、
秋になっても変わらず、私の掌に残っていた。
だけど、彼の隣にいると、汗さえも、少しだけ心地よく感じるから不思議だ。
「わっ……浴衣、ほんとに着てくれたんだ」
「うん。どう? 似合ってる?」
「……ちょっと、他の人には見せたくないかも」
「え……なにそれ、そういうのずるい……!」
頬が熱くなるのは、夏のせいだけじゃない。
手をつないで歩く夜の参道は、ちょうちんの灯りと、金魚すくいの水音と、どこか遠くで鳴る花火の音に満ちていた。
人混みの中、彼が私の手を引いて歩く。
繋いだ手はずっと離さないままで。
「こっち、空いてる。……少し休もう」
瑛翔が連れてきてくれたのは、
神社の境内の裏手にある、ひと気のないベンチだった。
隣に座っても、彼は何も言わない。
でも、その沈黙が、妙に落ち着く。
「……来てよかった?」
「うん。すっごく楽しい。ありがとね」
「いや、こっちこそ」
彼がそう呟いて、私の髪にそっと触れる。
結い上げた髪を見ながら、ぼそっと言った。
「……反則。似合いすぎて、ほんと困る」
心臓が跳ねる。
視線を落として、慌てて笑う。
「そんな……瑛翔の方こそ。
いつもと違って、なんか“大人の彼氏”って感じで……かっこいいなって」
「……“彼氏”って言われるの、何回目でも照れるな」
「ふふ。私も、“彼女”って言われるの、ちょっと嬉しい」
空に小さな花火があがった。
その音と光の中で、
彼の手が、指先から絡んでくる。
そのまま、そっと私の方を向いて、
唇が、ほんの少しだけ近づいた。
不意打ちのキス。
浴衣の襟元に、彼の指がそっとふれる。
誰にも見られないように、
でも確かに、そこにだけ世界が閉じ込められていた。
そのあと、ふたりで夜風に当たりながら、
ずっと、手をつないだまま歩いた。
夏が、ゆっくり終わっていく。
けれど、彼のぬくもりだけは、
秋になっても変わらず、私の掌に残っていた。
