キスしたら、彼の本音がうるさい。

◇神谷瑛翔◇

“好き”って言ってくれた。
ちゃんと、まっすぐ俺の目を見て――
あんなに綺麗に、真剣に、心をこめて。
 
嬉しかった。

息が詰まるほど、心臓が跳ねるほど、嬉しかった。
でも、それと同じくらい怖くなった。
 
どうしても言葉が出なかった。

“俺も”って言うだけだったのに。

何度も、頭の中で練習してたはずなのに。
ちゃんと、ちゃんと伝えようって、決めてたはずなのに。
 
気づけば、彼女は前を歩いていた。
俺の隣じゃなくて、ほんの少しだけ先を。
その背中が、やけに遠く見えた。
 
──離れていく。

俺が言葉を飲み込んだまま、立ち止まっているから。

それでも、彼女の言葉が重かったから──
中途半端な気持ちじゃ、答えたくなかった。
 
──わかってる。

それでも、何も言わないままでいい理由には、ならなかった。

彼女は、ずっと待っててくれてたのに。