キスしたら、彼の本音がうるさい。


朝。

冬の空は薄く光っていて、ふたりの影を長く落としていた。

駅へ向かう道。
瑛翔の隣を歩きながら、私は昨日の夜を思い出していた。

何も言わなかったけど、
それでも彼は、そっと隣にいてくれた。

それだけが、今の私を少しだけ救ってくれる。

言葉にしなくても、伝わるものがあると信じたい。

でも──

やっぱり、言葉にしてほしいと思ってしまう自分も、どこかにいる。

それでも今は、この手がつながっていることだけを信じていたかった。

ふたりの関係に、まだ名前はなかった。

でも、だからこそ、見えない糸をたぐるように、
そっと歩幅を合わせて歩いていた。

──もう少しだけ、このまま。

そんな想いが、冬の朝の風に、静かに溶けていった。