今日から私は上司の奴隷になりました

「は、はい」
「君は、専属で本阿弥君の補佐をしてくれ」

「専属ですか? そうなりますと、私の担当業務は……」

「誰かに引き継いでくれ。その辺は武田君と相談してやってほしい。引継ぎの期限は、今日から一週間だ」

「はあ」

一週間で引き継ぐのかあ。誰に引き継ぐかにもよるけど、キツイなあ。と思っていたら、

「3日でお願いします」

と本阿弥課長が言った。3日で引き継ぐなんて、無理だって。

「本阿弥君、いくらなんでも、それは無理だろう?」

ほらね。

「いいえ、3日でも長いくらいです。優秀な野田君なら、訳ないでしょう。な、野田恵子君?」

本阿弥課長はそう言って、私に向かってニヤッと笑った。嫌なヤツ!

「では引継ぎは3日で頼む。その後は本阿弥君の指示に従ってくれ。以上!」

とか言って、部長と本阿弥課長はさっさと行ってしまった。


「課長、どうしましょう?」

私は武田さんに助けを求めたのだけど、

「人選を含め、全て君に任せる。君なら出来るよ。頑張ってくれ」

って言われた。要するに、課長は私に丸投げして逃げた。とほほ……


その後の3日間は大変だった。なるべく優秀な部員を選んで私の業務を引き継いだのだけど、3日間はあまりに短い。ちなみに通常の引継ぎ期間は2週間、というのがうちの会社の慣わしだ。

引き継がれた方も大変だと思う。なにせ実質的には部員が1名減なのだから。

それにしても、今回の人事は謎が多いと思う。

本阿弥課長が新規入社である事は、人事発令で明らかだ。では、どこから、何のために、なぜ総務部なのか。

それには社長が絡んでいると思われ、私と同期で仲が良く、今や社長夫人になった秘書課の旧姓朝倉舞(あさくらまい)に聞いてみたいのだけど、この3日間はそんな余裕などなかった。一段落ついたら舞をお酒に誘い、聞いてみたいと思う。