今日から私は上司の奴隷になりました

歩いて例のバーへ行くと、マスターは私達を見て目を丸くし、次にニコッと微笑んで「いらっしゃいませ」と言った。私は、恥ずかしいような、それでいて誇らしいような気持ちで、「こんばんは」と挨拶を返した。

私達はカウンター席に並んで座り、ワイルドターキーのソーダ割をオーダーした。そして、ご主人様とグラスをカチンと合わせ、それを口に含むと、ちょっと甘いバーボン特融の味と香りが口の中に広がり、ソーダ割なので喉越しが爽やかだった。

「美味しい」
「だろ?」

「ここって、俺達が出会った記念すべき場所だよな?」

「そ、そうね」

あまり詳細には思い出したくないけども。

「だからさ、ここで渡したかったんだ」

ご主人様はそう言うと、上着の内ポケットから黒い小箱を取り出した。そして、それを私の前のカウンターに置き、パカッと蓋を開けた。

「わあ、綺麗……!」

その箱の中にあったのは、可愛いダイヤが乗った、プラチナの指輪だった。

「これ、私に?」
「もちろんさ。嵌めてごらん?」

私はその指輪を取り出し、左の薬指にそっと嵌めたら、ピッタリだった。

「ピッタリです。でも、どうして……?」

「ホテルでお前が寝てる時、こっそり計ったから」

「そ、そうなんですか?」

という事は、あの頃既に、ご主人様は私と……結婚を!?

嬉しい。嬉し過ぎる。

「プロポーズの言葉は、さっき言っちゃったからなあ」

「もう一度聞きたいです」

「そうか? 一般的なやつにする? それとも、俺達らしいやつで行く?」

「後者でお願いします」

「わかった」と言って、ご主人様はコホンと咳ばらいをした。

「恵子。一生、俺の奴隷になってください」

「はい。ご主人様」

私は嬉しさのあまり、大粒の涙を零していた。
ただしマスターに聞こえていたらしく、ギョッとした顔をされてしまったのだけども。