「では、お二人の弥栄を祈念して、乾杯!」
「かんぱーい」
ご主人様はゴクゴクと喉を鳴らしながら、グラスのビールを一気に飲み干した。
「はあー、やっぱりビールは旨いなあ」
そんなご主人様を見ていたら、私の気分はだいぶ晴れて来て、ご主人様のグラスにビールを注ぎながら、
「この一週間、何をしてたんですか?」
と、素直な気持ちで聞いてみた。
「神徳から聞いてないのか?」
「おいおい、口止めしたのはおまえだろ?」
「ああ、そうだったな。実は……探偵事務所を立ち上げてたんだ」
ご主人様は、私にドヤ顔を向けてそう言ったのだけど、なぜそんな顔をするのか、私には理解出来なかった。
「それは良かったですね。おめでとうございます」
「はあ? なに、その薄い反応。なんでもっと喜ばないんだよ?」
「だって、私には関係ないし……」
「関係がないだと? おまえが俺に安定を求めたから、俺は急ピッチで事務所を立ち上げたんだぞ」
「そうなんですか? 私ったら、余計な事を言ってすみませんでした」
ご主人様とそういうやり取りをした事は憶えている。でもあれは、ご主人様との将来を夢見ての事で、すぐにそれは私の独りよがりだと気付いたんだ。
「恵子が俺達の未来に不安を感じてると思ったから頑張ったのに、俺の独りよがりだったか……」
ご主人様は、さもがっかりという感じでそう言ったのだけど、”俺達の未来”って……えっ?
「”俺達の未来”とか、”俺の独りよがり”とか、どういう意味なの? ちゃんと言ってくれないと、解らないんだけど?」
「そんな事、神徳たちの前で言えるわけないだろ?」
「もう言ったも同然だけどな」
と社長が言い、
「良かったね、恵子」
と、舞が優しく微笑んだから、私の勘違いではないみたい。つまり、今のご主人様の発言は、実質的には私へのプロポーズだという事に……
「嬉しい!」
「うわあ!」
私は人目もはばからず、嬉しさのあまりご主人様に抱き着き、私達は勢い余って倒れ込んでしまった。



