今日から私は上司の奴隷になりました

「来ないかと思ったぞ。終わったのか?」

「ああ、ようやく終わった。疲れたよ」

ご主人様は社長と意味不明な会話をしつつ、私の隣の座椅子にドスンと座った。

「よお、久しぶり。元気にしてたか?」

「さあ、どうですかね」

内心はご主人様と久しぶりに会えて嬉しいのに、気のない返事をしてしまう私だった。

一週間ぶりに見るご主人様は、やっぱり素敵なんだけども、ちょっとお疲れ気味に見える。いったい何をしてたんだろうか。

「恵子はご機嫌斜めだな。何かあったのか?」

「別に……」

「本阿弥さんが連絡をくれないから、恵子は寂しくて拗ねてるのよ。ね?」

「ちょ、舞……」

図星だけに恥ずかしい。

「そうなのか? だったら、そっちから連絡をくれれば良かっただろ?」

意地で連絡しなかったのだけど、それをそのまま言うのは癪だから、どう言い返そうか考えていたら、仲居さんがご主人様の料理を運んで来てくれた。

「おお、美味そうだな」

ご主人様は、目の前に並べられた懐石料理に目を輝かせていた。もしかして、最近はちゃんと栄養を摂っていないのかしら。

「4人揃ったんで、改めて乾杯しよう?」

社長はご主人様と私のグラスにビールを注いでくれて、ご主人様は社長のグラスにビールを注ぎ返し、私は舞のグラスにウーロン茶を注ぎ足した。

「本阿弥、恵子さん。この度は本当にありがとう。二人の活躍のおかげで、俺達の悔しさはだいぶ晴れたし、問題点に気付かせてもらえたよ」

社長が言った問題点とは、セキュリティの甘さの事だと思う。ちなみに加藤美幸さんに情報を抜き取られた斯波さんは、会社から厳重注意を受け、6ケ月間の減俸という処分だった。普通なら懲戒解雇でもおかしくないけど、今までの功労が配慮されたらしい。